麻酔科学で扱う分野は、麻酔、救急・集中治療、ペインクリニックと多岐にわたっています。いずれにおいても、現在の医療の中で生体への侵襲に対する防御医学として重要な分野です。当教室では今日まで、さまざまな角度から、侵襲学の解明と新規の治療法開発に向けて取り組んできました。ここでは、現在遂行中の研究について紹介したいと思います。
基礎研究
現在、行っている基礎研究としましては、以下のものが挙げられます。
いずれにおいても生体への侵襲とその防御機構の解明を目指したものであり、基礎から
臨床へのフィードバックが期待される研究課題です。
研究結果の一部は多数の学会で発表され、各学会においても高い評価をいただいています。
■炭水化物添加術前補水食の効果の基礎的研究
第25回日本静脈経腸栄養学会(2010年2月25日・26日)千葉
NUTRI YOUNG INVESTIGATOR AWARD
「炭水化物添加術前補水食の効果の基礎的研究」
今富良太
■EGDTプロトコルに反応しない敗血症性ショック患者に対するHigh flow volume CHDFの有効性およびIL-6,HMGB-1制御の検討
第20回日本急性血液浄化学会学術集会(2009年10月9日)札幌
優秀演題賞(Best Presentation award)

「EGDTプロトコルに反応しない敗血症性ショック患者に対するHigh flow volume CHDFの有効性およびIL-6,HMGB-1制御の検討」
後藤孝治
■人工膵臓を用いた周術期強化インシュリン療法の有用性とその基礎的背景の解明
日本麻酔科学会第55回大会 最優秀演題

「人工膵臓を用いた心臓手術周術期強化インスリン療法の効果検討」
Effects of intensive insulin therapy for cardiac surgery patients with artificial pancreas apparatus

浅井 信彦、 岩坂日出男、長谷川輝、 萩原聡、新宮千尋、野口隆之
大分大学 医学部 脳・神経機能統御講座 麻酔学
■侵襲の運命決定因子学:HMGB1の制御と
                   救命救急医学への臨床応用(厚生労働省 指定研究)
第17回日本ショック学会 会長賞
鵜島 雅子 他/「エンドトキン血症マウスにおけるRAGE投与の効果」


第19回日本ショック学会 会長賞
萩原 聡 他/「HMGB-1その役割と新たなる治療法の可能性について」


第23回日本ショック学会 会長賞
萩原 聡 他/「LPS誘発肺障害モデルにおけるシベレスタットナトリウムの役割とその作用機序について」
■長期、経腸栄養・静脈栄養後の敗血症性ショックにおける反応の変化
■糖代謝と侵襲の関係 インスリン強化療法の臨床応用とそのメカニズムの解明
第43回九州麻酔科学会 会長賞
古賀 寛教 他/「心臓手術での強化インスリン療法の効果検討」
■ラット敗血症モデルを用いた糖代謝に与える影響と膵細胞への小胞体ストレスとの関係
■ラット敗血症モデルを使用したHigh Mobility Group Box 1 (HMGB1)の変化と各種薬剤の細胞保護効果の検討(図1, 2)
図1(クリックでpdf拡大表示) 図2(クリックでpdf拡大表示)
■ラット虚血性心疾患モデルにおけるHMGB1の果たす役割の解明
■Heat Shock Protein 70 (HSP70)の各種傷害モデルにおける細胞保護効果の解明
■Heat Shock Protein 47 (HSP47)の各種線維化モデルにおける役割の解明
■ペインクリニックにて現在使用しているレーザー機器等の鎮痛制御機構の解明
第42回九州麻酔科学会賞
鵜島 雅子 他/「半導体レーザーの末梢性鎮痛機序を利用した新たな術後鎮痛法の開発」
第44回九州麻酔科学会 会長賞
木村 信康 他/「新たな鎮痛法であるパルスRF法の臨床評価と作用機序の解明」
■ペインクリニックにて現在使用しているノイロトロピン等、薬剤の鎮痛制御機構の解明
■脳虚血に対する脳保護機構の解明と臨床応用
■ラット腎虚血再還流モデルにおける各種薬剤の細胞保護効果の検討
■ラットSmoke-Burn injuryモデルにおける各種薬剤の抗炎症効果の検討
第31回日本集中治療医学会 若手優秀演題
工藤 享祐 他/「BBS-2はマウスにおける熱傷合併煙吸入後急性肺障害を軽減する」


第34回米国集中治療会議 Respiratory Specialty Award
水谷 明男 他/「Activated protein C reduces combined burn and smoke
inhalation-induced acute lung injury in mice by inhibiting excessive
production of nitric oxide」


この他にも、科学研究費の補助を受け、
1)平成18年度基盤研究(C)課題番号18591710課題名「人工呼吸器誘発肺傷害と生体防御反応
 に対する異常体温(発熱・低体温)の影響」(研究代表者:野口隆之)、
2)平成18年度基盤研究(C)課題番号18591985課題名「熱傷合併煙吸入高齢ラットに伴う急性
 肺傷害のカルシトニン遺伝子関連ペプチドの役割」(研究代表者:工藤享祐)、
3)平成18年度若手研究(B)課題番号18791090課題名「人工呼吸時の気道内圧の差が気道内の
 MUC(mucin)2の発現に及ぼす影響」(研究代表者:吉良慎一郎)等の研究を鋭意遂行中です。
臨床研究
■麻酔・集中治療分野
この分野では、集中治療中の患者の病態評価と
治療法に重点をおいて研究を行っています。
例を挙げますと、重症患者の病態に大きく関与
していると言われる酸化ストレスはリアルタイムに
評価することは非常に重要ですが、これまでは
不可能でした。われわれはベッドサイドに設置した
簡易型電子スピン共鳴装置(図3)を利用して、
血清アスコルビン酸ラジカルを測定することにより、
リアルタイムに酸化ストレスの程度を
評価する方法を確立しました。
図3(クリックでpdf拡大表示)
この方法により、例えば、ARDSに対するsivelestatの効果と酸化ストレスの関係、intensive
insulin therapyと酸化ストレスの関係、相対的副腎不全に対する低用量ステロイドの効果の
機序の解明などについての研究を行っています。
また治療効果の判定や予後の予測にも応用できるかどうかも検討中です。


さらに重症敗血症及び敗血症性ショック患者に対して中心静脈酸素飽和度をモニターし、
early goal-directed therapyを施行、同時に非侵襲的な超音波法を利用し、ベッドサイドにて
不全臓器(特に心、脳、肝、腎)の血流や機能をリアルタイムにモニターしています。
この方法により、各種薬剤、持続血液濾過透析、低用量ステロイド療法などが不全臓器の
血流や機能に与える影響を調べ、治療効果の判定だけでなく、より効果的な治療法を確立する
ための研究を行っています。
ペインクリニック分野
ペインクリニック分野は、関連する領域が多いため、最近では麻酔科学のみならず、
整形外科学、脳神経外科学、神経内科学などの臨床医学や薬理学や解剖学などの基礎医学
からのアプローチにより多角的な研究がなされている分野です。
また、扱う疼痛も急性疼痛、慢性疼痛、癌性疼痛など多岐に広がっています。
われわれの教室では、下記の2点に特に重点を置いて臨床研究を行っています。
1.硬膜外腔内視鏡による難治性腰下肢痛の治療法開発および病態の解明
近年、多くの分野で内視鏡を用いた直視下の低侵襲治療がなされています。疼痛治療の領域に
おいても、硬膜外腔内視鏡が開発され、従来の全身麻酔下で行う脊椎手術と比較し、
より低侵襲な手術が可能となり、患者の肉体的負担が軽減することが期待されるため、
腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などの腰椎手術実施後の腰下肢痛に対しては
硬膜外腔内視鏡による治療が行われるようになりました。
また、この腰下肢痛の病態は、背髄硬膜外腔の
癒着、末梢神経の物理的障害、神経根の炎症等が
原因ではないかと推測されていますが、未だ
明らかではありません。当科では先進医療である
硬膜外腔内視鏡を用いて、難治性腰下肢痛の
治療法及び病態を研究しています。(図4)
図4(クリックでpdf拡大表示)
2.Pulsed radiofrequencyによる難治性疼痛患者の治療法開発および病態の解明
近年Pulsed radiofrequency(以下:パルスRF法)が、神経因性疼痛や三叉神経痛などに
行われ、疼痛軽減効果を認めたとする報告があります。
パルスRF法は、高周波をパルス状にかけ、高電圧下に針先端を42℃以下に保つ電磁場による
治療法ですが、鎮痛機序がすべて解明されたわけではありません。
当科ではパルスRF法を使用して、基礎実験とともに難治性疼痛患者の治療法及び病態を
研究しています。
Department of Anesthesiology,Oita University Faculty of Medicine,2006.2007.All Rights Reserved.