医学部長挨拶

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科学と医学教育の問題点
医学部長写真  科学としての医学は有史以来、漠然とした体の不調、血液、体液などの不均衡と考えられてきた疾病を、1761年モルガニーが "病気の座と原因"で特定の組織や器官の病的変化によることを実証し、1858年ウィルヒョウが"細胞病理学"で疾患は細胞の異変に起因することを明らかにした。更に1953年ワトソンとクリックが核酸の二重らせん構造を解明して以来、遺伝子医学、分子生物学が凄まじい速さで発達し、生物学的現象が遺伝子レベル、分子生物レベルで解明されてきた。

 科学は現象面の機序についてある程度説明できるが、その進歩とともに、われわれの視点が"器官"から"組織"、"細胞"、"遺伝子"とより小さいものになり、狭小化し、狭小化するとともに、視点の中に人間性の存在が少なくなり、全てを物質とみなす傾向が強くなってきた。

 現在の医学教育はscience-minded, evidence-based, problem orientedでなければならないのだが医学というものも科学であり、科学は極大・極微いずれを対象としても、あくまで分析的に観察し、それを手段として進歩しているもので、現在の医学部の教育は医学という科学を基本に教育しているため、人間の部分を見るような傾向が出てきた。 一方、近年、社会全体で全人的医療が注目されているが、その考え方は先進医療の現場で働く医師から言われることは少なく、多くは共に働くコメディカルが唱え、医師たちの考え方の欠点、改善すべき点を社会に認識させ、医療に対する不信感を増幅させており、医療が社会からの強い信頼を得るため学生・卒後教育も更に改善が必要であると考えている。

 これまで、医学部では分析的手段で発展してきた医学を基本に教育を行ってきたが、現在の医療過誤、社会の医療不信、医療の偏在、少子高齢化による疾病構造の変化、医療と福祉の狭間の問題など深刻な社会問題が押し寄せてきており、社会医学・福祉と医学教育の調和に苦闘している。 また、医学自体は、より良い医療や福祉を実践するために存在するものであるため、教育、研究、診療いずれの分野においても社会と強い接点を持たねばならないし、その有効な方法を模索している。

 一方、日本という国は元来、教育と医療・福祉には大きな予算を割いた試しがなく、日本全国の医学部が直面していることであるが、大分大学医学部でも、2004年度の独立行政法人化以降、運営費交付金が毎年減額され、学生・卒後教育、研究、診療自体も危機的な状況に陥っている。

 しかし、大分大学医学部は創立30年を超え、医学部として成人になったことを自覚し、県内の皆様の健康増進のため、地域社会に貢献するため、大学として自助努力をおこない、医療・医学に携わる後進を育成し、大分県の医療・医学の発展を守っていく決意でありますので、皆様のご指導、ご鞭撻をお願いいたします。

2009年 4月 大分大学 医学部長 野口隆之