自己心膜による大動脈弁形成術

血液の逆流を防ぐ心臓弁が正常に働かなくなる「心臓弁膜症」は、加齢や血管の動脈硬化などが原因で発症します.最初は弁だけの病気ですが、病気は徐々に進行し、心臓の筋肉(心筋)にも障害が生じ、最終的には心不全という状態に陥ります.動悸、息切れ、呼吸困難、疲れやすさ、胸痛などが主な症状ですが、症状はゆっくり進むことが多く、病態がかなり進行しているにも関わらず、体が慣れてしまって、症状を感じないこともあります.
病状が比較的軽い時は、心筋収縮力を増加させる強心剤、心不全を改善させる利尿剤など、薬による内科的治療が開始されますが、病状が重い場合は手術が必要となります.

これまでの手術には、@異常のある弁を切り取って人工弁を入れる「弁置換術」と、A弁を切り取らず、弁を縫い合わせるなどして形を整える「弁形成術」があります.最近の弁膜症に対する治療の進歩は著しいものがありますが、2007年のデータでは、弁膜症の術後30日以内の平均死亡率は2.1〜3.7%と報告されています.

弁置換術で使用される人工弁は、2種類に大別されます.

主にカーボン(炭素系金属)性の「機械弁」は装着すると一生使用できる反面、血液の塊ができるのを防ぐ抗凝固薬、ワーファリンを一生涯服用しなければなりません.毎月血液検査を行い、その都度、服薬量を調整する必要があり、日常生活は極めて制限されることになります.薬が効きすぎると、出血性疾患(脳出血や消化管出血など)の危険性が高まり、効きが悪いと、弁に血栓ができ、急性弁不全や、塞栓症(脳梗塞など)を生じる可能性もあります.抗凝固薬の弊害はほかにも多くあります.歯科の治療が受けにくい、胃や大腸のポリープ切除などでも入院を要する、他疾患で手術を要する場合、易出血性が大きな障害になる、などのほか、出産をひかえた若い女性や、肝硬変、消化管出血などの患者さんには、抗凝固療法は禁忌となります.

一方、ブタやウシの組織で加工した「生体弁」は、術後数か月以降は、ワーファリンを服用しなくてもすみますが、10年から15年後に、一定の確率で傷んでくるため、再手術でまた取り換える必要があり、耐久性の面が大きな問題となります.また、生体弁には、弁膜を緊張させる枠組みの構造物があり、これが弁口面積を狭くさせるため、大動脈径の小さな患者さんには、不向きとなります.日本人女性は多くがこの問題に直面します.また人工弁は異物を移植することになるので、細菌感染症に対する抵抗性が弱いことも特徴です.

2枚の弁でできた僧帽弁という心臓内部の弁の病気は、多くのケースで弁形成術が行われるようになってきていますが、大動脈弁は3枚の弁でできた立体的な構造で、形を整えるのが非常に難しく、弁形成術がほとんど行われてきませんでした.

この大動脈弁疾患の患者さんに対して、最新の弁形成術治療が注目されています.

::自己心膜を使用した大動脈弁形成術とは

 東邦大学医療センター大橋病院で開発された手術で、自分の心臓を取り巻く心膜という膜を切り取り、これを特殊な溶液に浸して強度を上げた後、3枚の弁尖を作成して縫いつけるという方法です.自分の体の組織の一部を使用しているので、ワーファリンを服用する必要もなく、1個約100万円の人工弁を使わないという経済的メリットもあります.もちろん手術手技そのものは、厚生労働省の保険適応のある承認されている手術術式の一つであり、メディアや学会でも取り上げられ、注目を集めつつあります.東邦大大橋病院では、2007年4月から2010年6月までの3年間に200以上の手術を行っており、再手術が必要になった症例はありません.

しかしながら、この治療法は人工弁置換術と比べて新しい治療法です.そのため長期成績については未知数であり、現状ではまだ完成された治療法とは言えない面もあります.ただし完成度に関していえば、市販生体弁も10年から15年で劣化をきたすこと自体、まだまだ多くの改良の余地が残されている治療法といえるわけです.この点をよく理解する必要があります.機械弁よりメリットが多いことは明らかではありますが、少なくとも現存の生体弁と同等以上の耐久性を示した時に、生体弁置換術は、ほとんどこの弁形成術に置き換わる可能性を秘めています.開発者である東邦大学心臓血管外科の尾崎教授のグループは、この手術に関して、数多くの基礎実験データを持っており、これらのデータに裏付けられた確信のもと、臨床応用が進められています.すでに、日本の数施設でこの手術が行われており、良好な成績を上げつつあります.

当科では,東邦大学大橋医療センターで研修をうけ,2010年6月末には,尾崎教授に,直接ご指導いただきながら,既にこの手術に着手しております.今後も適応のある方,希望される方には,積極的に治療していく方針としています.
詳細についての,お問い合わせは,いつでも受け付けていますので,お気軽にご連絡ください.
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