News 2017

 ◆ 中塚医学賞受賞者表彰式 受賞者セミナー が開催されました

                                             2017年10月02日
● 中塚医学賞受賞者表彰式 受賞者セミナー が開催されました。

 大分医科大学初代学長である中塚正行先生の名を冠した中塚医学賞は、大分大学医学部における若手研究者の研究の活性化及び進展を目的とした大分大学医学研究表彰です。今年も、優れた研究成果を挙げた5名の研究者が第7回中塚医学賞生命科学・医学専門分野及び看護学専門分野の受賞者として選ばれ表彰されました。

                                             

生命科学・医学専門分野
  泥谷 直樹 氏  分子病理学 助教
  膵上皮内腫瘍におけるDUSP4のゲノム欠失は浸潤癌への進展に寄与する

  甲斐 友喜 氏  大分医療センター泌尿器科 医師
  Sav1の腎特異的欠失はHippo pathwayの抑制による腎尿細管上皮細胞の過剰増殖をもたらす

  河野 正典 氏  整形外科学 助教
  骨肉腫細胞におけるmiR-93によるPTEN発現抑制と腫瘍増殖能の解析

  平川 東望子 氏  産科婦人科 助教
  子宮内膜症においてエピジェネティクスにより発現が抑制されている miR-503は、子宮内膜症間質細胞に対して
  アポトーシス促進、細胞周期停止、細胞増殖抑制、血管新生抑制、収縮能抑制に働く

看護学専門分野
  脇 幸子 氏  実践看護学講座 准教授 
  糖尿病をもつ人のセルフケア能力の構造モデルに関する研究:IDSCAと身体自己認知のパス解析

 10月2日(月)18時より臨床大講義室にて受賞者表彰式ならびにセミナーが開催されました。小林は、審査委員会委員長として講評を述べ、受賞者セミナーの司会をつとめました。今年も研究内容のレベルが高かったので激戦となり選考に苦労しました。例年、生命科学・医学専門分野からは3名が選ばれるところ、今年も昨年に引き続き4名の受賞者が表彰されました。

【講評】

【生命科学・医学専門分野】  泥谷直樹氏の研究は、膵癌の悪性化に関して、これまで謎であった上皮内癌が浸潤癌に進展するメカニズムを解明したインパクトの大きい研究である。泥谷氏は、同一症例内の上皮内癌と浸潤癌のゲノムプロファイルを比較して、浸潤癌で8番染色体の片アレルが欠失していることに着目し、遺伝子発現レベルが低下しているDUSP4を見出した。ERKの脱リン酸化酵素であるDUSP4が低下するとERKシグナルが増強し、上皮内癌細胞の接着依存性が消失して浸潤癌に進展するという新たな分子機構を解明した点が高く評価された。難治性疾患である膵癌の浸潤メカニズムを明らかにした点、DUSP4やErkが新たな膵癌の分子標的となり得る点を示したことは、医学的に重要であり、今後の発展性も期待できる。5名の審査員の評価の平均点は4.8点と最高得点であり、強く推薦に値する業績であると評価された。  甲斐友喜氏の研究は、淡明細胞型腎細胞癌の高悪性化に関わる14番染色体長腕欠失から導き出されたSAV1遺伝子の役割について、SAV1コンディショナルKOマウスを作製し組織学的解析により明らかにした力作である。SAV1遺伝子の発現が低下することでHippo pathway下流のYAP1の抑制が解除され、癌細胞の増殖が促進されるという分子機構を詳しく解析した点も高く評価された。5名の審査員の評価の平均点は4.2点と高得点であり、強く推薦に値する業績であると評価された。  平川東望子氏の研究は、所属する研究室が長年取り組んできた子宮内膜症に関連するmicroRNAの同定ならびにその機能解析である。平川氏は、本研究で、プロモーター領域のメチル化によってmiR-503の発現が低下すると、子宮内膜症間質細胞がアポトーシス耐性や細胞増殖亢進などの子宮内膜症に特徴的な形質を獲得することを示した。miR-503の機能を明確にしており、今後の治療標的となり得ることを示す貴重な研究成果が評価された。  また、河野正典氏の研究は、ヒト骨肉腫細胞で発現異常を示すmicroRNAとしてmiR-93を同定し、この阻害により骨肉腫細胞の増殖が抑制され、さらに、ヌードマウスに移植した腫瘍の形成も抑えられることを証明しており、miR-93の学術的な重要性に加え、将来、分子標的とした新たな治療法の確立につながることが期待される。  平川東望子氏、河野正典氏、両氏に対する5名の審査員の評価の平均点は4.0点で甲乙つけがたく、共に強く推薦に値する業績であると評価された。  以上により、泥谷直樹氏、甲斐友喜氏、平川東望子氏および河野正典氏を生命科学・医学専門分野の受賞候補者とした。

【看護学専門分野】  脇幸子氏の研究は、糖尿病をもつ人への看護について、対象論としてのセルフケア能力の構造にかかる研究と、援助論としての支援方法の開発研究がなされているもので、脇氏が学位授与された論文である。主論文は、統計的手法を駆使し、セルフケア能力の因子構造における「身体自己認知」という因子が他の因子とどのような関連性があるか、パス図を用いて明らかにしている。一方、副論文は、脇氏らが開発したタッチパネル式自己評価を糖尿病患者に応用しながら看護師が関わる中で、患者へのインタビュー内容からセルフケア能力が高められる過程を検討し、患者・看護師双方の役割を明らかにしたものである。両論文とも「糖尿病のセルフケア」に関する示唆に富む研究であり、3名の審査員の評価の平均点は4.33点と高得点であり、強く推薦に値する業績であると評価された。  以上により、脇幸子氏を看護学専門分野の受賞候補者とした。