新型肺炎報道、現場の反応鈍く…中国・胡錦濤新体制

【上海=伊藤彰浩】新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)の流行に関し、
中国政府の情報開示が遅すぎるとして国際的批判が高まっている。先月、発足した
胡錦濤新体制は国民が関心のある内容を正確に伝えるべきだとして報道改革に乗り
出しているが、現場の反応はまだ鈍く、改革実現への道のりは遠いといえそうだ。

新型肺炎の流行が中国国内で話題となったのは今年2月初旬ごろ。感染者が出た
広東省では、住民の不安が拡大し、予防効果があるとされる漢方薬や酢が売り切れる
など混乱が発生したため、患者数が公表され、地元各紙も混乱抑制のキャンペーンを
行った。ところが騒ぎが落ち着くと報道はぱったりと途絶え、張文康・衛生相が、
香港などを除く中国「内地」での発生者総数を公表した今月2日まで、その後の拡大の
実態はほとんど伝えられなかった。

中国の「従来型」の報道は、国内の混乱を抑えるための情報統制に徹し、事件報道は
きわめて限られていたのが実情。ただ、胡錦濤氏(現国家主席)が共産党総書記に
就任した昨年の共産党大会以降は、「事実報道を許す動き」(報道関係者)も見えており、
2月から3月にかけ、北京大などで起こった爆弾事件や、北京での「爆弾男」立て
こもり事件は即日報道した。

また、胡主席が主宰した先月28日の党政治局会議では、マスメディアの報道について
「国民の関心のある内容を正確に伝えるべきだ」とし、国家指導者の発言・動静や
会議中心だった報道を国民生活に密着したものに変えるべきだとの指示も出されていた。

それだけに、新型肺炎の拡大の実態が逐一報道されなかった「統制ぶり」は、報道の実態
をあらためて白日の下にさらした形だ。中国国内の報道は、政府当局が患者の実数公表に
乗り出した最近でも、「感染はコントロール下にあり安全だ」との政府コメントを繰り返し伝えている。

(2003/4/5/23:11 読売新聞)