ベトナム 「制圧」は間近

徹底した隔離奏功 外国支援積極受け入れ

中国など各地で拡大する新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)
との戦いが、国によって明暗を分けている。ベトナムでは「制圧」が
間近となる一方、中国では迷走状態が続く。

【バンコク=奥村健一】SARSによる死者5人を出しながら、的確な
初動対応で制圧寸前にまで迫ったベトナムの“成功例”が注目を集めて
いる。国外専門家の支援を積極的に受け入れ、徹底した隔離と情報公開
が功を奏しているようだ。

世界保健機関(WHO)の駐越代表は今月15日、「ベトナムは抑制に
成功しており、今後2週間で新たな感染者が出なければ、SARSは
制圧されたと考えられる」とした上で、「越政府はSARS感染者の数
を隠していない」として、これまでの情報公開ぶりも高く評価した。
同日以降、ベトナムでの新規感染者は報告されておらず、着実に
「制圧」に近づきつつある。

医療水準が低い同国で、被害の抑制に成功した大きな要因は、
WHOや日本、フランスなどからの支援を受け入れ、病気の原因が
不明の初期段階から適切な対策を取ったことだ。また、ベトナム
報道機関は、初期段階から感染状況などを伝えてきた。同じ共産党
独裁体制の中国が、真相の隠ぺいに傾いて外部の協力を受け付けず、
被害を拡大させたのとは対照的だ。

ベトナムのSARS騒動は、2月下旬、香港からハノイ入りした中国系
米国人が発症し、同市内の病院に収容されたのが発端。その後、
この患者に接した医療関係者ら40人近くが感染・発症する事態に
発展、計63人の感染被害を出した。

WHOは3月中旬、「ベトナムや中国・広東省などで原因不明の肺炎が
集団発生している」と警告を発するとともに、ハノイに対策チームを
派遣した。越保健省は、新型肺炎の危険性を訴える同チームの忠告に従い、
感染した疑いのある患者や医療関係者らを一つの病棟に隔離するほか、
診療時のマスクやゴーグル着用の徹底や、見舞客の制限などの措置
を迅速に講じた。

越政府は、これまで病院建設協力などの実績がある日本にも支援を要請。
国際協力事業団(JICA)は先月16日から25日まで、国際緊急
援助隊専門家チームを派遣したほか、使い捨てのゴム手袋やガウン
なども提供した。

専門家チームの一員としてハノイ入りした国立国際医療センター
呼吸器科病棟医長の川名明彦医師(43)は「主な感染ルートだった
院内感染を抑え込んだベトナムの例は、日本での被害拡大への対策を
考える上で、大いに参考になる」と話す。

(2003年4月23日付  読売新聞)