野生動物の売買取り締まり逃れ後絶たず…中国・広東省

中国南部・広東省で好んで食べられる野生動物が、新型肺炎(重症急性
呼吸器症候群=SARS)の「発生源」と疑われる中で、中国政府や広
東省政府は野生動物の捕獲・売買に対する取り締まりを強めるなど、S
ARS拡大阻止に躍起だ。しかし、中国でもとりわけ食文化が豊かなこ
とで知られる広東省では、野味(野生動物を食材に使う料理)が、すっ
かり定着しており、野生動物を扱う「野味市場」は、これまでどおりの
営業を続けている。(中国広東省広州、関 泰晴)

広州の空港と市街の間に位置する石井地区。様々な卸売市場が集まる場
所で、ひときわ大きく目立つのは、屋根に赤色の中国の国旗がはためく
「家禽(かきん)蛇獣総合市場」。広東省で最大規模とされる「野味市
場」だ。

大型倉庫のような市場の建物は4区画に分けられ、ネコ、野豚、クジャ
ク、ダチョウ、カメ、ハクビシン(ジャコウネコ科の哺乳(ほにゅう)
類)、ハリネズミなど、野生動物を中心に50種類以上の食用動物が金
網や布袋に入れられて、生きたまま売られている。

建物の中は100軒あまりの店が並び、1階の店舗で食用動物を売り、
2階の部屋で従業員が暮らす形式。コンクリートの床は動物の糞尿(ふ
んにょう)や血液が垂れ流され、市場の内部は悪臭が漂っている。

広東省の初期の感染者は食用動物を扱う業者などに多かったという報道
もある。「野味がSARSの原因かもしれないと言う人がいることは知っ
ている。すごく怖いが、考えないようにしている」。大型ヘビを売る店
の経営者はこう言って苦笑した。

関係者によると、広州の野味レストランは違法営業も含めれば100軒
以上に達する。仲買人が市場などを通じて、食用動物をレストランに販
売すると見られるが、流通経路など実態不明な部分が多い。

野味の仲買人の男性によると、中国で国家2級保護動物に指定されてい
るセンザンコウも秘密裏に入荷しているといい、価格は1キロあたり
100元(約1500円)前後。レストランのメニューではキロ当たり
10倍の値段となる。

このほか、広州の人々は「ネコの肉を食べると精力が付く」と信じてお
り、レストランに行くと鍋料理の材料として1皿10元前後で売られて
いる。ネコの仲買人は、鍋料理のシーズンになると、3000匹あまり
を出荷していると話している。

野生動物の売買に関しては、中国政府はこれまでも、動物・自然保護を
理由に毎年全国的な取り締まりを展開してきた。SARS流行を受け、
中国政府はさらに、先月末、野生動物全般の捕獲・売買を禁じ、違反し
た場合は刑事罰を適用するとの緊急通達を出した。野生動物が原因と思
われる感染症が発症した場合は、「患者は早期に隔離したうえ、診察・
治療を受けさせ、現地の衛生当局に報告する」と特に注意を喚起している。

また、広東省政府も、野味を売り物にするレストランの営業許可を取り消す方針だ。

しかし、「食在広州」(食は広州にあり)と言われるだけあって、当局
の摘発を逃れる違法売買は無くならないのが実情だ。

広東省政府が過去に広州の市民を対象に行ったアンケート調査によると、
半数以上が「野生動物を食べたことがある」と答えた。市場の関係者は
「野味は高級料理で、利益も大きい。規制を強めても、違法営業が増え
るだけだろう」と話している。

◆SARSと野生動物◆

香港大の研究チームは、SARSウイルスの遺伝子配列の3割はネズミ
やウシのウイルスに似ているとして、「動物から人間に感染した可能性
が高い」と推定。広東省で好んで食べられる野生動物に疑惑の目を向け
ている。ウイルス発生源の動物を特定することで、ワクチン開発に近づ
く、と期待されている。

(2003/5/4/01:03 読売新聞WEB版)