「靖国」で悪化の日中関係、新型肺炎支援で改善図る

新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)への対応をめぐ
り、政府が中国に対する支援を本格的に検討している。すでに
15億円の緊急無償資金協力や国際緊急援助隊の専門家チーム
派遣などを決定し、引き続き協力していく考えを示している。
積極支援の背景には、首相の靖国神社参拝をきっかけに冷え切
っている日中関係を改善する糸口にしたい思惑がある。

●首相指示●

川口外相は9日の記者会見で、専門家チーム派遣を発表した後、
こう続けた。

「この時に(専門家チームに)李肇星外相への私のメッセージ
を託し、今後さらに支援することがあればしますよと伝えます」

坂口厚生労働相も同日の記者会見で「中国のSARSの猛威が
1日も早く終わるように、私たちもお手伝いしたい」と強調した。

対中SARS対策支援は、小泉首相が6日に坂口厚労相に直接
指示して検討が始まった。

日本政府は先月下旬に国際協力事業団(JICA)を通じて医
療機器など2億円分の物資を供与していたが、首相の指示を受
けて、さらに緊急無償資金協力など15億円の追加供与を決定
した。11日に北京入りした専門家チームは、国際医療センタ
ーの医師2人と外務省、JICAの職員計4人で構成され、北
京の人民友好病院などで感染症対策の指導、助言にあたる予定だ。

●靖国のトゲ●

政府が中国支援に積極的な背景には、悪化した日中関係を修復
するチャンスととらえていることもある。

日中関係は、小泉首相が2001年8月に靖国神社を参拝した
ことを契機に一気に悪化。翌年4月に春季例大祭に合わせて再
び靖国神社を参拝した際、中国側は理由を明らかにしないまま
中谷防衛長官(当時)の訪中を拒否した。

当時の江沢民国家主席は、訪中した日本の与野党の政治家と会
談するたびに、「私は小泉首相の靖国参拝を絶対に許さない」
などと首相を名指しで批判。首相も日中国交正常化30周年に
合わせ予定していた昨年秋の訪中を見送るなど、日中関係は
「国交正常化後最悪」(外務省幹部)と言われるほど悪化していた。

3月にスタートした胡錦濤国家主席―温家宝首相の新体制は、
SARS対策の不手際で国際的批判にさらされている。日本が
SARS対策支援を本格的に実施すれば、「日中間に刺さった
トゲの靖国参拝問題をいったん脇に置いた形で、日中両国の首
脳が関係打開のためのテーブルにつく環境が整いやすい」(首
相周辺)のは間違いない。

●「北」が引き金●

北朝鮮問題が緊迫していることも、日本政府がSARS問題を
機に日中関係修復に力を入れる理由だ。核カードをちらつかせ
て「瀬戸際外交」を繰り返す北朝鮮に対し、有効な国際包囲網
を築くには、最大の経済援助国である中国の存在は不可欠だからだ。

今月下旬にもロシアのサンクトペテルブルクか仏のエビアンで
行われる予定の日中首脳会談でも、首相はSARS封じ込めへ
の協力を約束すると同時に、北朝鮮問題の平和的解決に向けて
緊密に連携していくことを確認したい考えだ。

(2003/5/11/23:22 読売新聞WEB版)