「意図的、検疫網くぐり」厚労省担当者憤り

「医師の行動は非常に遺憾だ」。関西や四国の名所を回って台
湾に戻った医師(26)が新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=
SARS)の患者と確定した17日、緊急会見した厚生労働省
の担当者は怒りをぶつけた。営業自粛に追い込まれたホテルも
「かなりの痛手」と悲鳴を上げる。ただ、2府2県で計110
0人を対象にした追跡調査では、今のところ感染の症状を訴え
る人は出ておらず、専門家は冷静な対応を呼びかけている。

■厚生労働省■

厚労省では17日午後3時45分から、加地祥文・感染症情報
管理室長が疲労の色を浮かべながら緊急会見。「確定したと言
っても、国内での2次感染の可能性が低いという見方は変わら
ない。各自治体には当初から確定患者を想定し、対応してもら
っている」と強調した。

ただ、台湾人医師が、勤務先の病院でSARS患者がいる部屋
にいたのに日本に旅行で来たことや、発熱後も解熱剤を服用し
て旅行を続け、航空会社の窓口や台湾の検疫所で発熱の事実を
申告しなかったことについては「想定外だった」とし、「意図
的に網をくぐり抜けたことは非常に遺憾」と憤りをぶつけた。

■自治体■

大阪府のSARS相談窓口の電話は切れ目なく鳴り続けた。1
7日午後6時までで271件に上り、2回線だった電話を7回
線に増設した。「台湾人医師が立ち寄った観光地に行っても大
丈夫か」などの相談が多く、「最近微熱があって心配」と不安
を訴える声もあったという。太田房江知事は、「さらに緊張し
て2次感染防止や調査、情報提供などを徹底する」と述べた。

大阪市も濃厚接触者などの健康調査を続けた。医師が宿泊した
ホテルで、接触した可能性のある従業員53人全員に感染症状
がないことを確認。9日の全宿泊客429人についても調査を
始めた。

■ホテル■

台湾人医師が宿泊したホテル4か所のうち3か所は「自主休業」
に追い込まれた。兵庫県・淡路島のホテルは6日間の営業自粛。
予約客約450人には電話で系列ホテルへの変更かキャンセル
を求めた。5組あった結婚式も4組は延期し、1組は高知県内
の系列ホテルで開いてもらった。宿泊していた女性客(27)
は「1週間は体温を測るなど体調をチェックしなければ」と話
していた。

香川県・小豆島のホテルも5日間の休館。20日まで営業自粛
する京都府宮津市のホテル副支配人は「かなりの痛手だが仕方
ない」とあきらめ顔だった。

医師が2連泊した大阪市内のホテルは、直接泊まった部屋を当
面使わないことにした。他の利用者には医師が滞在したことを
知らせ、消毒などの対応策についても説明したという。

■施設■

台湾人医師が9日、観光を楽しんだ大阪市此花区のユニバーサ
ル・スタジオ・ジャパン(USJ)では、医師の発熱が同日の
夕食後とあって、「厚生労働省から特段の対応は求められてい
ない」として、消毒などは行わず、17日も普段通り営業して
いる。ただ、この日から、各職場のミーティングなどを通じ、
全スタッフを対象に、発熱やせきなどの症状がないか自主的な
健康チェックを始めた。
兵庫県姫路市の姫路城では、保健所の職員が早朝から天守閣の
階段の手すりや三の丸広場などのトイレを消毒。城の入場口に
「安心して見学下さい」と書いた看板を設置した。

(2003/5/17/23:54 読売新聞WEB版)