新型肺炎感染予防、求められる冷静な対応

新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)患者と確認された
台湾人医師は、9日夜に大阪市内で発熱していたことから、離日
する13日までの間に、日本で感染を広げていた可能性がある。

SARSは、潜伏期間よりも発症後の感染力が強いため、国内
の感染拡大を防ぐには、この医師や「疑い例」患者となったバ
ス運転手について、発症後に会った人を割り出し、発症したら
迅速に隔離する体制が求められる。

SARSの最大の感染経路は、せきやくしゃみなどの飛まつで、
世界保健機関(WHO)などによると、「患者から2メートル
以内」で感染しやすい。このため、厚生労働省は、医師の宿泊
先や、運転手が入院前に訪れた2つの医療機関などを調べ、濃
厚接触者の追跡を急いでいる。こうした人たちは、患者との接
触から10日間自宅に待機し、健康状態の変化に注意してもら
うことになる。

しかし、日本には追跡調査の専門家が不足しており、「患者が
数か所以上で同時多発したら、対応できない」(岡部信彦・国
立感染症研究所感染症情報センター長)と懸念されていた。今
回も、関係府県の間で、調査範囲をめぐって認識に差があり、
混乱が起きている。

厄介なのは、問題の医師が観光地をめぐり、本州―四国間の移
動でフェリーに乗るなど、不特定多数との接触があったことだ。

また、患者の飛まつや排せつ物が物に付着すると、その中のウ
イルスは数日間生き続け、それが感染源となる可能性があるた
め、医師より少し後に同じ場所を訪れた人も、わずかながら感
染の恐れがあった。

そこで、同省は医師の行動経路を公表し、「心当たりの人は、
健康に異常があれば、保健所などに相談して、早めに受診を」
と呼びかけた。

SARSは、38度以上の発熱と、せきや息切れなどの呼吸器
症状が特徴で、下痢や頭痛を伴うこともある。潜伏期間は最長
10日で、その間に発症しなければ、ほぼ大丈夫。ただ、高血
圧や糖尿病など、持病のある人は症状が表れにくいことがある。

空気感染はしないので、患者と接点のない人が「関西にいるか
ら」というだけでマスクをする必要はない。また、患者の訪れ
た場所に、今もウイルスが残っている心配はない。

SARSウイルスは、アルコールなどの一般的な消毒薬に弱い。
漠然と「どこかで患者と会ったかも」と不安な人も、手洗いや
うがいといった日常の感染症予防策を講じていれば安心だ。不
安に陥らず、冷静な対応が求められる。

(2003/5/18/01:55 読売新聞WEB版)