新型肺炎終息を見せる香港、経済に大きな後遺症

【香港=関泰晴】香港の新型肺炎(SARS)の感染拡大に
終息の兆候が見え始め、マスクを着けて街を歩く市民の数も
減り始めた。しかし、世界保健機関(WHO)の渡航自粛勧
告で大打撃を受けた香港経済、特に観光業界は、急速な回復
が見込める状況ではない。

「香港の状況は、どんどん改善している」。香港のテレビ局
は20日、ブルントラント・WHO事務局長の発言をトップ
ニュースで伝えた。ピーク時に80人に達した1日あたり新
規感染者は、今月4日―20日まで、17日連続で1ケタ台
が続いている。

新規感染者減少の主因は、〈1〉集団感染が発生したマンシ
ョン街「アモイ・ガーデン」〈2〉院内感染が続発していた
病院――の2大感染源で、SARSの拡大を食い止めたこと
だ。マンション街は、住民隔離などが効果を上げ、先月24
日以降は感染者ゼロを記録。医療スタッフの新規感染も、今
月は連日2人以下だ。

市民も徐々に街に繰り出すようになり、地元証券会社が作る
「マスク指数」(マスクを着ける人の割合)は、先月下旬の
ピーク時71%から、40%に下がった。

香港政府は現在、10億香港ドル(約160億円)の予算を
計上、「SARS後」のイメージ回復プランを練っている。
政府の「経済振興戦略小委員会」はこのほど、〈1〉WHO
に香港で記者会見を開いてもらい、安全宣言を出してもらう
〈2〉「SARS制圧記念日」を設けて花火大会などのイベ
ントを開く〈3〉国際見本市やシンポジウムを開く――など
のアイデアを出した。
しかし、旅行観光業界は「すぐには観光客は戻らない」と悲
観的だ。

香港の空港当局によると、先月の旅客者数は前年同月比68
・9%減の90万9000人。香港に拠点を置くキャセイ航
空の先月の1日あたり乗客数は、同65・7%減の1万13
00人に落ち込んだ。今月の1日あたりの予測乗客数は70
00人だ。

高級ホテルの客室稼働率も10%を割る状態が続く。英国に
本部を置く「世界旅行産業会議」は、香港でのSARSの打
撃は、7月までは続くと予測、経済損失額は昨年の域内総生
産(GDP)の約2%に相当する284億香港ドル(約42
60億円)に達すると試算する。

大勢のマスク姿の市民が街を歩く異様な光景が連日のように
報道された。中国経済の発展、とりわけ上海の発展により、
香港の「地盤沈下」が叫ばれる中で、香港の国際的イメージ
は大きく低下した。こうした数字に表れにくい部分のダメー
ジも計り知れない。

香港中文大の洗日明教授(マーケティング論)は、「今後も
SARS撲滅に力を入れることが、イメージ回復につながる」
と強調する。だが、SARS制圧に成功しても、その後遺症
の完全克服には、長い時間を要することになりそうだ。

(2003/05/20/23:31 読売新聞WEB版)