新型肺炎「安全宣言」、騒動1週間でようやく“終息"

利用客が激減したホテルは「安全宣言を心待ちにしていた」
と胸をなで下ろし、厚生労働省の担当者は「少しほっとでき
る」と疲労の表情で語った。新型肺炎(重症急性呼吸器症候
群=SARS)に感染した台湾人医師(26)が関西や四国
を旅行していた問題は23日、国の事実上の安全宣言でよう
やく“終息”を見た。しかし、1週間にわたって続いた騒動
は、風評被害のつめあとを残し、国と自治体に多くの課題を
突きつけた。

◆ホテル◆

香川県土庄町の「小豆島グランドホテル水明」は、この日か
ら1週間ぶりに営業を再開した。入り口のドアに“再出発”
を告げる張り紙を掲げた後、三枝邦彦社長(45)が午前1
0時から朝礼に臨み「気持ちを新たにし、今まで以上のサー
ビスを」と呼びかけた。

台湾人医師の感染がわかり、予約はすべてキャンセルされた
が、ようやく4組6人の宿泊予約が入った。三枝社長は「こ
の1週間、『家族に迷惑がかかる』と家に帰れない従業員も
いた。これで終わりではなく、国はダメージを受けた施設の
ことも考えてほしい」と訴えた。

大阪市の都ホテル大阪では、稼働率が20%と、5月の通常
の70%を大きく割り込む日が続いていた。それだけに「一
刻も早い安全宣言を心待ちにしていた」とほっとした様子。

兵庫県・淡路島の南淡路ロイヤルホテルもこの日から営業を
再開。朝礼で、十河隆志支配人が「元気を出し、笑顔でお客
様を安心させよう」と訓示し、「営業自粛」の張り紙を玄関
から外した。

◆自治体◆

大阪府と大阪市の「安全宣言」は、この日夕方にずれ込む見
通しだ。

大阪市の追跡調査では、まだ約30人の宿泊客の確認がとれ
ていない。担当者は「潜伏期間が過ぎているので安全」とし
ながらも、国の宣言について「ちょっと早いのでは」。

大阪府の担当者も「もう出したの」と国の宣言にやや驚いた
様子。医師が出国した関西空港で、従業員約120人の健康
状態を再確認している。その結果を踏まえ、夕方にも会議を
招集し、大阪市の追跡調査も確認したうえで安全宣言を出す
予定だ。

◆厚労省◆

これで一瞬だけほっとできる」。坂口厚生労働相の事実上の
安全宣言に続き、記者会見に臨んだ厚労省幹部は、会見後、
目の下がくぼんだ青白い顔を緩ませた。

同省結核感染症課は、この2か月余り、天然痘によるバイオ
テロ対策や、昨年、米国で大流行した西ナイル熱の予防策に
も追われながら、SARSへの対応に忙殺されてきた。別の
幹部は「みんな体を壊しているから、夕方まで何もなければ
この週末だけは完全休業にさせてほしい。今回の教訓をもと
に、気を引き締めたい」と話した。

(2003/05/23/14:27 読売新聞WEB版)