当局批判、「出稼ぎ」差別…新型肺炎が中国を変えた?

【北京=佐伯聡士】新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=S
ARS)の感染拡大が中国社会の変革を促している。多く
の人命を奪ったSARSの衝撃は、はからずも、行政、社
会階層意識、公衆衛生などにおける構造的問題をあぶり出
し、新たな改革を推進する動力となりつつある。

「役人は表向き威勢が良いが、民衆の生命を守るという任
務を第一に考えているのか」――中国では現在、インター
ネット上でも、街角でも、危機対応に失敗した当局への批
判があふれる。識者も新聞紙上で「SARS危機は政府の
行政管理体制の弊害を露呈した」などと批判、行政の「無
責任体質」、「非効率性」を改革すべきだと訴える。

SARSとともに、中国全土に拡大したのが、公開の当局
批判、改革要求だ。SARS情報の統制が完全に裏目に出
て、統制が相当程度緩んだとの事情はあるが、こうした事
態は、中国では異例と言える。

当局側の守勢を象徴するのが、SARS絡みでの当局者処
分だ。「肺炎対策での職務怠慢」などを理由に、湖南省で
は207人、江蘇省では122人が処分を受けている。山
西省、内モンゴル自治区でもそれぞれ117人、121人
が処分された。

中国筋は、「政府も今後は民衆の声に配慮した行政改革を
進めざるを得なくなる」とし、SARSが真の行革への重
要なステップになるとの考えを示した。

また、SARSは、長い間固定されてきた社会階層の垣根
を超えた対応を迫った。その代表が、農村から職を求めて
大量流入する「民工」(出稼ぎ農民)に対し、健康管理や
治療などで一般市民と同等の措置を取るとした北京市の決定だ。

民工は、都市住民とは戸籍上区別され、医療サービスや基
本生活保障などを受けられず、子供の就学も難しかった。
「よそ者」として扱われてきたのだ。大量の民工は都市住
民の立場からすれば、社会の安定を脅かす存在に映り、か
つては無秩序な流入ぶりから「盲流」と呼ばれた。

SARSは、民工が都市住民と同様の権利を得るきっかけ
にもなりうる。事実、それを主張する声も大きくなりつつ
あり、「中国経済時報」紙は、「都市の『2等公民』を表
すような民工という差別的な呼称は、都市と農村の2元構
造を固定し、貧富の差の拡大につながる」として、まず呼
称を一般の「労働者」に改めるよう提言している。

SARSは、立ち遅れていた公衆衛生対策も加速させよう
としている。

中国紙「経済日報」はこのほど、生活環境を軽視した都市
のゴミ処理を改革するよう求める特集記事を掲載した。中
国の都市住民が排出するゴミの量は年間1億2000万ト
ン。年8%ペースで増加。しかし、都市の9割では、単純
な埋め立て処理しか実施されていない。

また、SARSを機に、中国各地で、伝統的悪習「たん吐
き」禁止の動きが広がっているほか、日本の公衆トイレな
ど、先進的な公衆衛生モデルを導入すべきだとの声も高ま
っている。
国際サッカー連盟(FIFA)は26日、9―10月に開 催予定の第4回女子ワールドカップ(W杯)を、米国で開
催することを発表した。米国開催は1999年に次ぎ、2
大会連続。FIFAは今月初めの理事会で、新型肺炎(重
症急性呼吸器症候群=SARS)の被害拡大により、開催
地を中国から移すことを決めていた。(助川 武弘)

(2003/05/28/01:08 読売新聞WEB版)