新型肺炎で相次ぐ大会中止、アジアに深刻な“後遺症”

2003/06/07/22:43読売新聞WEB版

中国、台湾などを中心に猛威を振るった新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)は、アジアのスポーツ界に暗い影を落とした。相次ぐ国際大会の中止や延期に加え、欧米各国が東アジア地域との“交流”を敬遠する動きも出た。沈静化しつつあるSARSだが、アジアのスポーツ界に残した「不安」はまだぬぐいさられていない。

◆日 本◆

「日本人選手でも中国経由で入国されたら困る」――日本近代五種・バイアスロン連合の菊地孝之事務局長は、SARSが拡大の傾向をみせ始めた今年3月、東欧で5月に予定されていたある国際大会の組織委員会から一本の電話を受け取った。「日本人もアジア人。欧州からみれば、日本もSARSの危険地域ということなのだろう。暗に来てくれるなと言っているな」と菊地事務局長は感じた。

サッカーでは、今月のキリンカップに出場する予定だったポルトガルが、SARSの影響を懸念し、日本協会の招きを拒否。それに代わるチームとして招へいを決めたナイジェリアも来日を辞退した。また、東アジア選手権も延期され、岡野俊一郎・東アジア連盟会長は会見で「残念」という言葉を繰り返した。

SARSを巡るアジアとの“交流拒否”について、国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長は「アジア選手の入国が拒絶され、選考で差別が起こらないように注視したい」と表明した。

日本では今後も、柔道の世界選手権や野球のアジア予選といった五輪予選の開催が予定されている。終息に向かいつつあるSARSだが、その脅威で大きく揺らいだアジアの“地位”が回復するまでには、なお時間がかかりそうだ。(松本 浩行)

◆中国・韓国◆

中国ではSARSの感染拡大が、2008年北京五輪の準備に影を落としている。北京五輪組織委員会は感染の危険を避けるため、5月25日に行う予定だった五輪ロゴの発表を延期。6月下旬からの五輪文化フェスティバルの延期も決まった。

孫維佳・組織委スポークスマンは「SARS対策は最重要任務」と強調する。大型イベントが延期に追い込まれたのは、「感染者が出た場合、北京五輪のイメージが決定的に悪化するのは避けられない」(関係筋)からだ。

孫氏は「組織委からはまだ一人の感染者も出ていない」と語るが、SARSは組織委だけの問題ではないだけに、悩みは深い。組織委では、五輪会場の建設工事などの整備は予定通り年内に着工するとしており、「五輪準備へのSARSの影響は大きくない」(新聞宣伝部)と強調している。

しかし、世界保健機関(WHO)の渡航延期勧告などの影響で、IOCや海外のスポーツ組織との人的往来は大幅に減少。今秋の女子サッカーW杯も、開催地の返上を余儀なくされ、経済的な損失は1億元(約15億円)以上との報道もある。「開催取り消しは中国女子サッカーの発展に大きな打撃」との声も聞かれるほどだ。

一方、韓国では今月予定していた柔道のアジア選手権が10月に延期されたほか、8月の大邱ユニバーシアードに向け、大会組織委が対策に追われている。

韓国での感染者は出ておらず、組織委では「日程の延期などはない」としている。だが、WHOが指定した感染地域から来る選手・役員に対しては、政府が入国に際して行う検疫・検査とは別に、組織委に健康診断書を提出するよう求める案を検討中だ。大会期間中も関係者への簡単な健診を随時実施するほか、患者発生時に備えて隔離病棟の確保を進めている。(北京支局 佐伯聡士、ソウル支局 浅野好春)


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