新型肺炎長期戦へ、研究者1千人が戦略練る

読売新聞
2003/6/18/01:41

 【クアラルンプール=安田幸一】「新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)は長期監視が必要な第2段階に入った」。マレーシアで17日開幕した世界保健機関(WHO)の世界会議には約30か国・地域から1000人余の研究者が集結。最新情報を持ち寄り、SARS戦略を練った。

 感染拡大を続けた今春の勢いは収まったものの、病気の解明や予防対策は難航しており、完全制圧への課題は多い。

 今回の世界会議は、急性期が一段落したSARSの新たな対策を検討するため、WHOが開いた。クアラルンプール市内のホテルの会場には、各国の医療行政担当者や研究者が詰めかけ、ホールは満員。

 ブルントラント・WHO事務局長は「世界が心配したこの新しい病気に対し、多くの国が効果的に対処できるようになったことが確認できた。これが今回の会議の大きな意義だ」と評価した。

 また、ヘイマン・WHO感染症対策部長は、「患者が急増し続ける事態は避けられたが、長期的な感染者調査は重要。拡大を抑えるために、情報の共有が必要だ」と長期戦略の大切さを呼びかけた。

 SARSの流行は、昨年11月に中国南部で始まり、今年2月には香港、さらに北京、東南アジア、欧米へと急拡大した。特に中国本土では政府の情報隠しが災いして、対応が遅れ、患者が5000人を超える事態となった。

 しかし、先月末から新たな報告例は減少し、今月4日には2か月ぶりに死者がゼロになった。16日現在、世界のSARS感染者(感染の可能性も含む)は、8460人。

 WHOは先週末、中国広東省など、感染者が多く出た中国本土9地域の感染地域指定を解除。残るはカナダ・トロント、北京、香港、台湾のみとなっている。

◆感染ルートの特定が重要課題◆

 SARS制圧に向けて、会議では次のような課題が明らかにされた。

 WHOは先月、SARSの最大潜伏期間の2倍(20日)を経ても新たな感染例の報告がなかったカナダ・トロントを流行地域指定から外した。ところがその数日後から流行が再開。把握できていない感染ルートがあることを裏付けた。WHOは、北京の患者の7割は「感染ルート不明」としており、感染ルートの特定が重要課題とされた。

 人の風邪の原因となるコロナウイルスは体の外に出ると数時間で消滅するが、この一種であるSARSウイルスは、独マールブルク大の実験でセ氏4度の寒冷条件でも3週間生存した。田代真人・国立感染症研究所ウイルス第3部長によると、会議では「低温に強いため、冬に再流行する可能性がある」と、冬季へ向けた戦略を呼びかける意見が目立った。

 制圧のかぎは、感染者を素早く見つけることだが、検査法の開発は思うように進んでいない。WHOは今月、患者の血液、便などの「検体」を集めた「検体バンク」を設立。世界の研究機関に検体を提供して検査法の開発を急ぐのがねらいだ。

(2003/6/18/01:41 読売新聞


もどる