[SARS制圧]「コンマであってピリオドではない」

読売新聞社説
2003/7/5/23:06

7月6日付・読売社説(1)

 [SARS制圧]「コンマであってピリオドではない」

   「二十一世紀初の重大な感染症」をようやく制圧したというのに、勝利の喜びに浮かれる専門家はいない。

 世界保健機関(WHO)が、台湾に対する新型肺炎(SARS)の感染地域指定を解除し、SARSの事実上の終息を宣言した。だが、「今後も監視体制の継続が必要」とクギを刺すのを忘れなかった。

 WHOが世界に警告を発してから約四か月。感染者は八千四百人を超え、八百人以上が死んだ。人とモノの流れは滞りアジア経済にも大打撃を与えた。

 だれもが待ちわびた終息宣言だ。中国などに工場や事務所を持つ日本企業も、ひと安心といったところだろう。にもかかわらず、専門家の表情が晴れないのはいまだに感染源が特定できず、治療法や検査法も開発されていないからだ。

 専門家は今冬にも再び流行する恐れを懸念する。まして症状が似ているインフルエンザとの同時流行の事態となれば、対応は極めて難しくなるだろう。

 坂口厚生労働相が言うように、「コンマ(読点)であって、ピリオド(終止符)ではない」と受け止めるべきだ。

 再流行を防ぐには、感染源の解明とともに、危険地域への監視強化が欠かせない。とりわけSARSの発祥地とされている中国南部については、国際機関の強力な監視網を敷くべきだ。

 人やモノが高速で移動する現代は、危険な病原体も瞬時に世界中に広がる。国の枠を超えた地球規模の対策がなによりも求められている。国際社会の連携の必要性を、改めて強調しておきたい。

 日本の対応にも不安が残っている。検疫体制の強化も、患者を隔離する特別な病室の整備も、“泥縄”の感は否めなかった。国と自治体の足並みの乱れも目立った。日本で患者が発生していないのは幸運なだけに過ぎない。

 課題は山積しているが、まず感染症法の改正を急がねばならない。広域的な取り組みが不可欠な感染症対策を都道府県任せにしている現状は改めるべきだ。

 地域のきめ細かな連携も大切だ。東北や九州などのブロック単位に配置されている厚労省の地方厚生局を活用し、自治体や大学病院、検疫所などの関係者が協力し合う仕組みを整備すべきである。

   専門家の養成も喫緊の課題だ。感染ルートの解明に必要な疫学専門家の養成は年間数人にとどまっている。感染症に詳しい医師も少ない。これでは万一の場合に対応できるか不安である。

 ウイルスは再登場の日を待ちながら、じっと、どこかに潜んでいる。油断は禁物だ。万全の備えを急ぎたい。

(2003/7/5/23:06 読売新聞WEB版)


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