情報源:シンガポール保健省(MOH)、記者会見、9月9日。
新規SARS可能性例―2003年9月9日。
シンガポール総合病院(SGH)は新規SARS可能性例を報告した。今回の患者は孤発例の
ようだ。患者は現在感染症センター[CDC]に隔離されている。感染源を特定するため
の調査が進行中である。患者の接触者は大部分追跡されていて、全員が健康である。
予防措置としてMOHは密接な接触者を自宅隔離命令下に置いた。
事例の時間的経過:
患者は27歳の中国系シンガポール人の博士課程終了後研究生で、国立シンガポール大
学(NUS)の微生物学研究室でウエストナイルウイルスを研究していた。彼は研究の一
部を、国立環境機関の環境保健研究所(EHI)検査室でも行なっていた。彼は最後に8月
23日にEHI検査室を訪れている。彼はこれまでのSARS流行地域への渡航歴や、SARS患
者との既知の接触は無い。
8月26日、彼はNUS研究室へ行ったが、深夜発熱し、一般開業医を受診して抗生物質を
処方された。発熱が持続したため彼は8月29日にSGH救急室を受診した。彼の胸部X線
写真は正常であった。彼はウイルス性疾患による発熱と診断され、救急室から帰宅し
た。彼は容態が改善しなかったために、中国医学の医師(中医)を9月1日に受診し
た。2日後、9月3日に彼は再びSGH救急室を受診、入院した。
患者が発病した8月26日からSGHに入院する9月3日までの間、2回のSGH救急室受診、一
般開業医と中医受診以外は自宅にいた。
SGHに入院した際、患者は発熱、筋肉痛、関節痛を訴えたが、呼吸器症状は無かっ
た。患者は入院後乾性咳嗽を発症した。3回撮影した経時的胸部X線画像はいずれも正
常であった。しかし9月8日、この患者検体でのPCR法と血清学的検査が陽性になった
ため、今後の治療のためCDCに移送された。患者の容態は安定している。
診断:
患者検体のPCR法による再検査が本日NUH検査室で行なわれ、陽性であることが確定し
た。患者検体でのPCR法と血清学的検査結果が陽性であることから、MOHは彼をSARS可
能性例として扱う。
感染源:
患者感染源同定のための調査が進行中。
研究室における予防的措置:
調査結果が判明するまで、2つの研究室は全ての研究活動を停止した。一方、研究室
のスタッフは完全に感染が否定されるまで自宅待機を命じられた。発熱や不調を訴え
たスタッフはいない。
SGHにおける予防的措置:
患者はSGH入院中全期間を通じて隔離されており、彼と接触したスタッフは予防衣を
着用しており、SGHでは感染機会が無いが、予防措置を中程度警戒レベルまで引き上
げた。この措置には、感染病棟への面会者制限や、スタッフのより厳密な体温サーベ
イランスなどが含まれる。
自宅隔離命令HQO:
グループと数、
患者の家族8名、
中医Sinseh 2名、
SGH救急外来8名、
面会者3名、
退院患者4名
総計25名。
結論:
MOHは一連の事例と患者の詳細をWHOに報告した。WHOは、SARS流行後の新規WHOガイド
ラインでは、この症例は症例定義を満たしていないと伝えてきた。
MOHは、この患者が早期に検知され隔離されたために、公衆衛生上の危険は少ないと
判断している。
[モデレーター注:上記シンガポールMOHの記者会見は調査状況と、実施されているコ
ントロール法を理解する上で非常に参考になる。症例が、SARS流行後の新規WHOガイ
ドライン上SARSの定義に合致しないことは8月14日WHOにより出されたガイドラインを
参照して欲しい:
またProMED-mail 20030818-0030重症急性呼吸器症候群SARS―世界各国(166):患者、
参照。この文書に以下の声明が有る:
(以下、WHOガイドラインからの引用文の記載、すなわちSARSが収束した今後におい
ても継続的監視が必要であるが、突発例の定義には最早SARS患者や感染地域への接触
歴・渡航歴が使用できないことと、臨床像が非特異的、発病早期には特異的な検査法
も無く、季節的に呼吸器疾患が流行することから、孤発症例の検出が困難であるこ
と。世界各国の危険度を、@SARS再発生可能性地域、A流行中心地域、B低リスク地
域の3つに分けることの記載。)
WHO文書はSARS可能性例の臨床定義を以下のように定めている:
"38℃以上の発熱の既往が有る患者、および1つまたは複数の下気道呼吸器症状がある
(咳嗽、呼吸困難、息切れ)、および肺炎か呼吸促迫症候(RDS)に合致するレントゲ
ン上胸部浸潤影、または、その他の原因無く肺炎かRDSの病理所見に合致する剖検所
見、および疾患を完全に説明しうるその他の病因が存在しないこと。"また検査所見
上の症例定義も定めている。
(以下、胸部レントゲン所見が無いことから症例定義を満たさないことと、現時点で
はシンガポールMOHが最善の対応をしていること、シンガポールは"流行中心地域"で
あり、サーベイランスの強化が要求されること、感染源として患者の職業から職業上
の曝露の可能性が考えられることの記載。)]
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