読売社説:冬場の再流行に万全の備えを

読売新聞
2003/10/7/01:43

10月7日付・読売社説(1)

 熱しやすく冷めやすいと言われる日本人にとって、気を付けたいのが新型肺炎(SARS)の再流行だ。

 いったん終息宣言が出されたSARSだが、シンガポールで先月、患者が確認され、世界を緊張させた。幸い二次感染は避けられたものの、専門家は、今冬の再流行を強く懸念している。

 国内では患者が出ていないが、「幸運なだけ」と思ったほうがいい。油断は禁物である。警戒の手を緩めることなく、冬場への備えに万全を期したい。

 SARSの効果的な治療法や確実な診断法は、いまだ開発途上にある。肝心の感染源も解明されていない。

 迅速な初期対応が重要であることを、改めて肝に銘じておきたい。最初の対応を誤ると、取り返しのつかない事態を招くことは、各国の教訓から明らかだ。政府のリーダーシップが問われている。

 政府は、感染症対策での国の権限強化などを盛り込んだ感染症法の改正案を、臨時国会に提出している。広域対応が求められる感染症対策を自治体任せにしている現行法には、大きな欠陥がある。知事の要請がないと国は専門家を派遣できないなど、どう考えてもおかしい。改正は当然である。

 SARSが侵入した場合に備えた、早期発見のシステムの構築も急ぎたい。原因不明の肺炎患者の発生情報を迅速に収集することで、SARSの兆しをいち早く把握できる。世界保健機関(WHO)も各国に導入を求めている。

 感染症の専門家育成も遅れている。国が責任を持って取り組んでほしい。

 怖いのは、インフルエンザとの同時流行である。SARSの初期症状は高熱やせきで、毎年十二月ごろから流行するインフルエンザとよく似ている。

 医療機関で見分けができず、大混乱に陥る危険性も指摘されている。SARSをインフルエンザと間違えれば、院内感染による被害の拡大を招きかねない。

 混乱を防ぐにはインフルエンザワクチンの接種が有効だ。インフルエンザの予防を徹底することで、SARSとの混同を少なくできる。医療従事者や体力の弱い高齢者、中国への渡航予定者などはもちろんのこと、一般の人もできるだけ接種を受けることが望ましい。

 社会の理解も欠かせない。迅速な隔離は個人の人権の制限を伴う。その必要性について国民の認識を深め、偏見や差別を防ぐことが大切だ。冷静な対応こそ、感染症対策の基本である。

 冬場は間近だ。「のど元過ぎれば熱さ忘れる」であってはならない。

(2003/10/7/01:43 読売新聞)  


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