鳥インフルエンザ、強まる「人から人」へ感染の懸念

読売新聞WEB版
2004/1/24/14:34

鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)が、東アジアで猛威を振るっている。ウイルスの遺伝子解析で判明した分のデータでは、同じ型の仲間ながら、各地のタイプは過去のH5N1型と“別物”との判定が出始めている。

 発生源や感染経路がわからないまま、同時多発する鳥インフルエンザの「人から人への感染」の懸念が強まっている。

 人への感染拡大が1番大きいベトナム。世界保健機関(WHO)は、H5N1感染を正式確認した死者5人以外にも、39人(うち10人死亡)に感染の疑いがあるとして、検査や聞き取り調査などをしている。いずれもハノイ市とその周辺に住み、せきや高熱などのインフルエンザの症状を発症したか、感染者と接触した。

 現地のWHO調査チームはまだハノイにしか入っておらず、情報は限定されている。未確認だが、鳥と鳥の間の流行はベトナムの半分の地域で広がっているという情報もあり、確認を急いでいる。

 そのWHOは22日、「ベトナムの鶏や感染者からとれたH5N1は、過去に人から見つかったウイルスと、遺伝子構造に重大な違いがある」と発表した。

 H5N1は1997年、香港で人への感染が初めて確認された。昨年2月にも香港で感染者が見つかった。

 日本の国立感染症研究所などもWHOチームに参加して、香港発H5N1と、ベトナムのH5N1の遺伝子を比較、大きな違いを見つけたという。独立行政法人動物衛生研究所は、山口県で大量死した鶏を調べたが、これも香港と遺伝子構造が異なると判定した。

 同研究所の山口成夫・感染病研究部長は「遺伝子を構成する塩基で98―99%の配列が同じでないと、ウイルス同士の関連性を判断するのは難しく、今回はそこまで似ていない」と話す。一連の解析結果を受け、WHOは「(昨年2月の香港と比べ)ウイルスがすでに変異してしまった」と分析する。

 インフルエンザウイルスは、遺伝子を猛烈な勢いで変える。H5N1はもともとカモの体内にいた。「カモから検出されるH5N1の遺伝子構造は100年前と変わらない」(喜田宏・北海道大大学院教授)。鶏に感染し、鶏の体内で免疫の攻撃を受けても、遺伝子構造を簡単に変え、生き残る。

 ウイルスのそうした特徴から、人から人へ感染する性質もいずれ持つと警戒されているが、事態は今冬に始まったわけではない。

 香港衛生当局が97年のH5N1型流行時に、感染者を手当てした医療従事者を調べ、約3%からH5N1型の抗体を検出した。発症はしなかったが、人から人への感染を疑わせるデータはすでにあった。

 感染拡大防止には、経路の解明も重要。だが、目に見えない病原体の追跡は難しい。インフルエンザは流行スピードが速い。H5N1型ワクチンはすでに開発されているが、遺伝子構造が違うウイルスが見つかっているために効果が見込めない可能性も出てきた。

(2004/1/24/14:34 読売新聞)


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