鳥インフルエンザ沈静化も、農水省の対応は後手後手

読売新聞WEB版
2004/04/13/03:14

 今年1月12日の山口県での感染確認以来続いた、国内で79年ぶりの鳥インフルエンザ問題は、京都府丹波町での13日午前零時の移動制限措置解除により、沈静化に向かうとの見方が強まっている。

 この問題では、早期通報者が非難されるなど、様々な教訓が残った。しかし、“指揮官”となるべき農水省の対応は終始、受け身に回った。(社会部 鈴木 敏昭)

 「なぜ通報した。訴えるぞ」。大分県九重町の製材業高倉善次郎さん(54)宅に電話があったのは、2月下旬のことだ。同14日、高倉さん宅のチャボが“変死”。その日のうちに町に通報し、18日には消毒などの初動防疫が完了。素早い通報が感染拡大を防いだのは間違いない。

 感染確認と同時に、発生地から半径30キロ以内で鶏肉や卵などの移動が制限された。区域内の鶏は約160万羽。毎日約30トンの卵が出荷出来ない。電話は、業界関係者の嫌がらせとみられた。妻のイツ子さん(56)は「通報しなければよかったのではと悩んだ」と語る。

 家畜伝染病予防法では、発生農家の被害は補償されるが、周辺農家は対象外。最初の発生地の山口県でも、周辺農家から「自分たちが原因でないのに、なぜ損害を被るのか」といった不満が県などに相次いだ。養鶏業界では、このころから「法改正して、きちんとした補償制度を設けないと、周辺への影響を恐れて通報をためらう農家が出てくる」との声が上がっていた。

 山口県などからの強い要請で、同省は2月3日、周辺農家への「被害の半額助成」の緊急措置を発表したが、大分県で2例目が発生しても法改正には消極的だった。

 そして2月27日、京都府丹波町の浅田農産船井農場で「感染隠し」が発覚。同省が周辺農家への補償問題でようやく法改正の検討を決めたのは、感染被害の拡大で混乱を極めていた3月1日だった。

 「補償なし」から「緊急助成」、「制度化」へ。同省の中川坦(ひろし)消費・安全局長は「その段階ごとに適切に判断してきた」と強調するが、感染発生地の不満は募った。山口県幹部は「補償制度がないと農家は安心して協力出来ないと、最初から言っていたのに」と、農水省への不満を口にする。「国は現場のことが全然分かっていなかった」と、この幹部が振り返るように、79年ぶりの事態にもかかわらず、同省幹部が現場に足を運んだのは、亀井農相が3月2日に京都へ行ったのが初めてだった。

 通報体制や補償を強化する家畜伝染病予防法改正案にメドがついた4月3日、同省は高倉夫妻に感謝状を贈った。亀井農相自らが大分県別府市を訪れ、「早期通報に感謝の気持ちでいっぱい。養鶏業者からも高く評価され、法改正につながった」と、礼を述べた。善次郎さんは語った。「感染が広がらず、本当に良かった」

(2004/04/13/03:14 読売新聞)


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