目次

1.はじめに

2.口唇・口蓋裂とは

3.口唇・口蓋裂の治療

4.口唇・口蓋裂児の育児

5.参考になる本

6.同じようなお子さんをもつご家族の方へ

7.口唇・口蓋裂の治療の流れ

1.はじめに

 胎児期のはじめに、顔と口をつくる突起の一部が癒合できず、お子さんに見られる発育障害がおこりました。その状態によって唇裂、唇顎口蓋裂、口蓋裂などの病名となります。唇裂や唇顎口蓋裂は意見すると将来まで残る重大な障害にみえ、「はたして良くなるのだろうか」と暗澹(あんたん)たる気持ちになったと思います。

”治ります”

 ただし、適切な時期に、適切な施設で、適切な処置を受ければです。さらに付け加えれば、長期的な展望に立って、最終ゴールを目指すことです。

 口唇・口蓋裂は500人に1人発生すると報告されています。大分医科大学歯科口腔外科において、大分県全体の調査をした結果もほぼ同様な発生頻度でした。先天的な形態異常としては頻度が高いものです。そのため治療法は進歩し、また社会的にも医療保障が整備されています。口唇・口蓋裂児を守る親の会や医療担当者(口腔外科医、形成外科医、矯正歯科医のほか)の永年の努力によって入院・手術や歯科矯正に要する医療費が補助されるようになったのです。

 治療はこどもの状態によって異なりますが初診時から思春期後期まで(19ページ参照)の期間に行われます。大分医科大学歯科口腔外科では一貫した治療システムで、お子さんの発育と障害に応じた治療計画を立てています。一度の手術で済むこともありますが、ゴールは高校卒業頃までと考えてください。

 お子さんはハンディキャップを持って生まれました。これから、幼児期、少年・少女期、思春期そして青年期に向かって成長します。社会性のある逞(たくま)しい人として育つように心がけてください。親の庇護(ひご)が常にあるわけではありません。

 これからは共に手を携えて機能と形態の獲得のために力を尽くしましょう。

 この冊子は、専門用語を使用しているため、理解できない点があるかもしれません。不明な点は、どんなことでも結構ですから、遠慮せず、担当医や看護師に尋ねてください。

2.口唇・口蓋裂とは    (目次へ


 唇や口の中に披裂を生じて生まれる病気のことです。これまで十分な知識がなかったため偏見などから「兎唇(としん)」や「みつ口」などと呼ばれていました。

 しかし、医学上は口唇・口蓋裂と言います。唇がわれている口唇裂、唇と口の中(口蓋)がわれている唇顎口蓋裂、口の中だけがわれている口蓋裂があります。

 口唇・口蓋裂は体の表面に生じる形態異常で比較的多いものです。外見的な問題を一番気にされていると思いますが、披裂による哺乳障害、鼻咽腔閉鎖不全(びいんくうへいさふぜん)による構音障害、歯の欠損や歯列不正、顎の成長抑制など口唇・口蓋裂による障害があります。また、このほかにも中耳炎などの耳の病気、心理的な問題などが起こることがあります。

 しかし、現在では適切な時期に適切な手術、処置、訓練を行うことでこれらの障害をなくすことができます。よい時期に手術や処置などが必要なためこれから子供さんが成人するまでが治療の期間です。あまり焦らず長い目で見ていきましょう。

 手術費用については、公的負担として、育成医療、更生医療の制度があります。詳しくは、当院1階の医事相談窓口へご相談ください。

口唇・口蓋裂の原因

 口唇は胎生4〜7週の時期に、口蓋は胎生7〜11週の時期に形成されますが、この時期に何らかの原因で顔を構成する組織が癒合できなかったために口唇・口蓋裂が生じると考えられています。

 癒合不全の原因は、遺伝的要因と胎児の発育に影響する環境的要因との相互作用によると考えられています。

 (1)遺伝的要因

 兄弟に発症する確率が高いことや、一卵性双生児では両児に発症することが多いことなどから遺伝的要因が関係していると考えられています。口唇・口蓋裂は患者の親族での発症率は高くなります。

 (2)環境的要因

 一卵性双生児の一方のみに発症することがあることや実験的に発症させることができることなどから遺伝以外の要因として環境的要因が関係していると考えられています。風疹ウイルスなどのウイルス感染、ステロイドホルモン剤などの薬物、大量の放射線被曝(ひばく)などが考えられています。

 いずれにしても様々な要因が重なり合って発症するものです。

3.口唇・口蓋裂の治療    (目次へ

ホッツ床

 口蓋の披裂がある場合は、哺乳がうまくできないことがあります。これを解決するためにホッツ床を用います。プラスチックでできた入れ歯のようなものです。初診時に口の中の印象(型)をとって作製、装着します。

 ホッツ床には顎の誘導・発育の働きもあり。適宜調整を行い、手術を容易にするために顎の形を整えていきます。口蓋形成時まで使用しますので、顎の成長に伴って何回か作り直す必要もあります。途中で使用を中止すると、再度装着することをいやがることがあります。継続して装着するようにしてください。

口唇マッサージ

 口唇の発育を促すために、2ヶ月頃から始めます。方法については適宜お話します。

口唇形成手術

 生後4ヶ月前後で口唇の形成手術を行います。全身麻酔での手術に耐えられるように、体重は6kg以上を目安に手術時期を決めます。心臓やその他の全身的な病気がある場合には、その治療を優先し唇の手術を延期する場合があります。

 手術の目的は、唇を縫い合わせるだけでなく、唇を構成する口輪筋(口の周りを取り囲む筋肉)を輪状に形成することです。これにより唇の自然な動きと機能を回復します。

 両側性の場合には、状態に応じて左右を一度に手術する場合と左右別別に手術する場合があります。

口蓋形成手術

 生後1歳10ヶ月前後、体重10kgを目安に手術の時期を決定しています。手術は披裂した口蓋を縫い合わせ、正常な口蓋の形態を作ります。

 また、構音機能(はっきりした言葉をつくる働き)に重要な鼻咽腔閉鎖機能(空気が鼻に漏れないようにする働き)を獲得できます。

口唇・鼻修正手術

 組織の不足と顎のゆがみ、歯の異常、さらに手術の影響によって成長に伴う口唇、鼻、上下顎等の変形を生じることがあります。そのため数回の手術が必要となります。その程度は個人差が大きいのでお子さん、ご家族のみなさんと相談した上で手術を行っています。

 当科では就学前に口唇の形、傷痕の修正を行い、上顎と鼻中隔の発育が終了する14歳以降に上下顎の骨の矯正手術や鼻を含めた修正手術を施行しています。お子さんによっては成人までに数回の手術を受けることになり、周囲の理解と協力が必要です。口唇・鼻修正手術は、必要に応じて、適切な時期に行われることがもっとも大切なことです。そのためには、定期的な診察が大切です。何度もお会いし、お話を聞くことで信頼関係が築け、時期を逃さず治療ができるのです。

顎裂部腸骨移植手術

 8〜10歳前後で、顎裂部に腰の骨を移植する手術を行います。鼻の形を整えやすくし、また矯正治療を容易にします。

歯科矯正治療および顎矯正

 出生後約2年間に、上顎は最初の成長ピークを迎えます。この間の口唇形成手術、口蓋形成手術は、上顎の成長に影響を与えます。また、裂の部位の歯は欠如したり、小さかったりするため、歯並びが悪くなることがあります。上顎の発育が悪いため成長に伴い下顎の方が前に出て「うけぐち」の状態になることもあります。

 矯正治療は、永久歯が出はじめてから行います。口唇・口蓋裂児では、矯正治療は保険治療で受けられます(但し、育成医療指定機関で治療を行った場合のみ)。育成医療指定機関は紹介いたします。上下の顎の成長がアンバランスな場合には、骨の成長が終わるのを待って、顎の外科手術を行うこともあります。

言語治療

口蓋裂があると息が鼻に漏れ、言葉がはっきりしません。口蓋形成手術を行うことにより、鼻咽腔閉鎖機能を獲得できるようにします。手術後はストローを吹く、ハーモニカを吹くなど、のどの奥の筋肉の訓練を行います。(鼻咽腔閉鎖機能の獲得)。これらの訓練で鼻咽腔閉鎖機能が十分に獲得できれば言葉は成長発育とともに自然に身についていきます。

★虫歯で歯がなくなると、息が漏れて話しにくくなります。言語の面からも、正しい食習慣、よくかむこと、口腔内清掃が大変重要です。

咽頭弁形成手術

 口蓋形成手術後、訓練によっても鼻咽腔閉鎖不全の十分な回復が得られない場合は、スピーチエイドあるいはパラタルリフトなどの補助具を使用して、機能的な回復をはかります。いつまでも装具から離脱できない場合には咽頭部の組織を用いて空隙の縮小をはかる咽頭弁形成手術を行うこともまれにあります。

中耳炎・副鼻腔炎

 口蓋形成手術前は、食べ物や乾いた空気が直接咽頭部へ送り込まれるため、咽頭部の粘膜の炎症を起こしやすい状態です。咽頭部に開口している耳管に炎症が波及すると中耳炎を起こします。また、鼻の症状が続くときは副鼻腔炎も疑われます。耳をむずがったり、聞こえが悪いと思われるときは知らせてください。耳鼻咽喉科受診の手配をします。

4.口唇・口蓋裂児の育児    (目次へ

哺乳について

 赤ちゃんの哺乳行動は、@舌の上に乳首をのせて口の中に含み、舌や顎で乳首を口蓋に圧迫し吸啜(きゅうてつ)して乳汁を吸い出す、A口の中に流れた乳汁を飲み込む、という二つの動作からなります。口唇・口蓋裂の赤ちゃんは、この動作がうまくできず、お乳を飲むのに時間がかかります。

 「この子はお乳が飲めないのではないか?」

という不安な気持ちになるかもしれませんが、心配ありません。赤ちゃんのほとんどが、生まれた直後から口から哺乳できます。ただ上手にできないため、量が少なかったり、飲むのに時間がかかったりしますので、少し手助けが必要です。口から飲むということは、唇・顎・舌等の発達、また言語発達の面からも大切なことです。

 お子さんも頑張って飲んでいます。お母さんはあたたかく見守って、いろいろな工夫をしながら助けてあげてください。

 (1)母乳栄養のすすめ

 お母さんの乳首から直接飲むのは口唇・口蓋裂の赤ちゃんにとって難しいことですが、一度は乳首を含ませてみてください。直接飲むのが無理な場合は、搾乳(さくにゅう)して哺乳瓶で飲ませましょう。産後の母体のためにも赤ちゃんの健康のためにも大切なことです。

 (2)授乳姿勢

 鼻腔への漏れ防止・誤嚥や耳管への逆流防止として、45〜60°の座位に近い姿勢にして抱き、飲ませます。

 授乳は、赤ちゃんが成長・発達する過程において体験するお母さんとの大切なスキンシップです。授乳の際には、ゆったりとした気持ちで、声をかけ、赤ちゃんの表情をみながら二人の時間を楽しんでください。決して片手間にならないように。

 赤ちゃんは空気をたくさん飲み込んでしまいます。授乳後はもちろんのこと、授乳中にも顔を見ながらゲップを出してあげてください。お乳を吐くと誤嚥や耳管への逆流の危険がありますので注意が必要です。

 (3)哺乳瓶・乳首の工夫

 チュチュ、ピジョン、ヌーク等のメーカーから口唇・口蓋裂児用に工夫された乳首が市販されています。乳首は成長に合わせて、変更していきます(口唇裂の手術後は乳首の変更が必要になる場合もあります)。1回の哺乳時間が長い場合(1回に15〜20分以上)、1回の哺乳量が少ない場合には、乳首の再検討が必要です。看護師にご相談ください。

「口唇口蓋裂児 哺乳の基礎知識」(150円)を外来窓口に用意していますので参考にしてください。

 (4)授乳法と記録について

 ★体重
 ★1回の哺乳量
 ★1回の哺乳時間
 ★1日の哺乳量
 ★1日の哺乳回数

を毎日記録してください。1回量が少なければ、1回授乳時間を延ばすのではなく、回数を増やして赤ちゃんに負担をかけないようにしてください。疲れてしまいます。

 鼻からチューブを通してミルクを入れる場合もありますが、まれです。状態が落ち着けば早い時期に経口哺乳に替えます。

 (5)脱水の危険性

 少ない哺乳量が続いた場合には脱水の危険があります。乳児は、大人と比べてたやすく脱水に陥ります。症状を早く見つける方法を挙げておきます。

 ★顔色が悪く不機嫌
 ★大泉門の凹みが深い
 ★手足が冷たい
 ★体重減少
 ★皮膚に弾力がない
 ★尿量減少

このような症状があったら近くの小児科をすぐ受診してください。

 (6)ホッツ床の取り扱いについて

 24時間装着を目標にしてください。飲み込んでしまわないかと心配されるお母さんもいますが、心配ありません。

 哺乳後は、必ず水洗いし、1日1回1時間、次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンTM等)で消毒してください。汚れがひどいときは柔らかい歯ブラシで汚れを落としてから消毒してください。。

 はずした時の口蓋の状態(きずができていないかなど)、装着時に嫌がったり落ちたりしないかを観察してください。

 破損、紛失した場合にはご連絡ください。

連絡先:歯科・口腔外科外来 直通電話 097-586-6710

日常生活について

 赤ちゃんの社会性の発達を考えて生後1ヶ月を過ぎる頃から1日に1回は戸外に抱いて出るようにしましょう。日光浴は足先からはじめ、少しずつ広げましょう。時間は3〜5分程度から始めてください。。家にとじこもることは、お母さんにも赤ちゃんのためにもよくありません。外気浴・日光浴の後は水分補給をしてください。

 手術の前は披裂が閉じていないので乾燥した空気や冷たい空気がそのまま肺に入ります。他の赤ちゃんに比べると上気道炎や肺炎になりやすいので、室内の温度・湿度に注意してあげてください。お母さんも手洗い、うがいを忘れずに。普通の感冒予防と同じです。

予防接種

 通常どおり行ってください。しかし、予防接種をした後の1ヶ月間は手術ができません。

 接種のときにはご相談ください。

 体調に問題がなければ手術後1ヶ月より予防接種は可能です。

離乳食

 通常どおりに始めてください。

 離乳に関しては赤ちゃんの発育状況をみて始めてください。(発育に関しては健診で指摘された場合にはご相談ください。)

他の子より時間がかかってしまうこともあるかもしれません。無理に食べさせようとすると嫌がるようになり離乳がうまく進まなくなる可能性もありますので、1回量や回数の工夫と、何よりもお母さんの根気が必要です。ゆったりとした気持ちですすめていかましょう。

口腔内の清潔について

 乳汁、食物の流れや口の中の自浄作用が不良となり、汚れやすい状態になります。授乳の後にホッツ床をはずして白湯番茶を与えて乳汁等が残らないようにします。口唇のまわりも汚れやすいので清潔なガーゼ・ハンカチ等で優しく拭き取ってください。ホッツ床を装着している児では、取り扱いを十分守ってください。感染予防につながります。

5.参考になる本    (目次へ

 @口唇口蓋裂患者の理解のために 河合幹 監修 医歯薬出版
 A口唇口蓋裂児の言葉の相談室 伊東節子 編著 医歯薬出版
 B口唇・口蓋裂児の幸せのために 口唇・口蓋裂友の会編 ぶどう社
 C啓太君のお母さんの口唇口蓋裂手帳 日本口唇口蓋裂協会編
 D幼児期の口唇口蓋裂の子供たちへの理解のために 日本口唇口蓋裂協会編
 E学童期の口唇口蓋裂の子供たちへの理解のために 日本口唇口蓋裂協会編

 C〜Eの3冊については一般書店では購入できません。当院歯科口腔外科外来窓口で取り扱っています。

大分大学医学部附属病院 歯科口腔外科外来 Tel 097-586-6810〜6812

6.同じようなお子さんをもつご家族の方へ    (目次へ

(保護者の方のアンケート調査より、原文のまま)

・分からないことがあれば医師や看護婦さんに聞くことが一番です。外来で出会う患者さん(同じ病気を持つ家族の方)と話すと、勇気づけられるし励ましあえることができます。

・手術するまで、親として恥ずかしいとか、いろいろと考えましたが、親として自信を持つことが大切だと分かりました。

・育児に自信を持ってのびのびと生活をさせてやってほしいと思います。

・同じ地域の方だったら、ご紹介下されば、何ともないことだと勇気づけてあげたいですね。

・この病気に関しては、個人差が大変大きいので、何事にも心配せず、治療については医師に任せ、心のケアを親が十分に子供にしてやることが一番だと思います。

・この子の親は自分なんだという気持ちで、人目を気にせずに大切に育ててやりたいと思っています。

・治療に長時間かかるので、子供と共に病気を受け入れていくのに苦労すると思います。同じ病気を持つ人と話をすることで良いアドバイスをもらえると同時に安心感を得ることができたと思います。

・レティナを洗うときには、歯間ブラシが役立ちます。(レティナ:口唇形成手術後に鼻腔内に装着するもの)

・すべてスタッフの方にゆだねることではないでしょうか?

7.口唇・口蓋裂の治療の流れ    (目次へ

ホームページへ