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大分大学医学部 精神神経医学講座

パニック障害とは

パニック障害は、長い間病気であるという認識が医師および一般の方になく性格の問題とされてきました。そのため性格の問題と長年言われ続け、患者さんは大変苦労してきました。抗うつ薬であるイミプラミンが、パニック障害に効くことが判明してから、不安障害は全般性不安障害・特定の恐怖症・社会恐怖・強迫性障害・外傷後ストレス障害・急性ストレス障害・全般性ストレス障害と同じ分類に入れられています。パニック障害は、パニック発作を主体とする精神疾患であります。この病気は、ある日突然、めまい、動悸、呼吸困難といった症状とともに激しい不安が発作的に起こります。しかし医師の診察を受けても、身体にはどこも異常なところはありません。最近になってマスコミで多く取り上げられるようになり、一般のヒトにもパニック障害が病気だと認識されるようになりました。かつて患者さんは、この病気の症状を呈した時、周りのヒトから性格が問題と非難されて、大変肩身の狭い生活を送ってきました。パニック障害は、100人に1人ぐらいの割合で起こる病気です。欧米諸国では男性1人に対し女性が2人以上の割合で発症するといわれていますが、日本では男女ほぼ同じくらいの割合で発症しています。発症年齢は男性では25歳から30歳位にピ−クがあり、女性では35歳前後の発病が最も多くみられています。パニック障害のパニック発作は、誘因なく突然はじまります。最初パニック発作は、心臓がドキドキする、汗をかく、身体や手足の震え、呼吸が早くなる、息苦しい、息が詰まる、胸の痛みまたは不快感、吐き気、腹部のいやな感じ、めまい、自分が自分でない感じ、狂うという心配、死ぬのではないかと恐れる、しびれやうずき感、寒気、ほてりで発症します。パニック発作は、ピークは10分以内に達し、発作は30分以内にほとんど治まります。またパニック発作は様々な身体症状が出現しますが、発作症状を説明できる異常な臨床検査所見(心電図、心エコ−検査、心臓カテ−テル検査、胸部X線検査、脳波、CT,MRI画像検査、胃腸の透視検査、血液−尿検査)はみつかりません。パニック発作がまた起こるのではないかという不安が、予期不安です。そのためパニック発作を繰り返している患者さんは、次第に発作の前にパニック発作が起こるのではないかという感覚がわかるようになります。一部の患者さんは、空間恐怖をともなうことがあります。これは、パニック障害の患者さんが、パニック発作を繰り返していくと次第に発作が起こった時に援助を求めにくい車・電車・飛行機に乗ることや、トンネル・エレベーターなどの閉鎖された空間にいることが困難になることです。またパニック発作が頻回に起こると自宅から一歩も外に出ることができない患者さんもいます。パニック障害の治療としては、薬物療法と精神療法があります。薬物療法としては、三環系抗うつ薬であるイミプラミン、抗不安薬であるアププラゾラム、抗てんかん薬であるクロナゼパムなどが使用されています。また最近では副作用の比較的少ない抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるパロキセチンが用いられています。精神療法としては、支持的精神療法とともに認知行動療法が、薬物療法と同等の効果があることで注目されています。病気の予後を決定する因子としてストレスの役割が大きいと考えられています。

パニック障害のメカニズム

パニック障害は、脳内の恐怖の神経伝達系の脳内サーキットに異常があると考えられています。この中でも不安・恐怖で中心的な役割を果たしている扁桃体の異常が指摘されています。扁桃体は、大脳辺縁系といって古い脳に属し、大脳新皮質から間脳および脳幹との間のインターフェイスとして重要な働きをしています。扁桃体は、恐怖の対象に対して攻撃するか逃避するかの二者選択から反応して脳内の主要な領域に緊急信号を送ります。たとえば目の前に蛇がいると目から入った視覚刺激は、視床から大脳新皮質の視覚野(後頭部)を介して扁桃体に入る経路と視床から直接扁桃体に入る経路があります。前者の経路は、大脳新皮質で恐怖な対象か否かを判断します。後者の経路は、判断という認識なく直接反応します。扁桃体は、不安や恐怖そして自律神経反応である過呼吸・動悸・発汗などを症状として示します。恐怖がなくなると、大脳新皮質(前頭葉)は危険が去ったことを脳の各部位に知らせます。パニック障害では、扁桃体の異常と同時に大脳新皮質(前頭葉)の危険解除がうまく働いていないと考えられています。この状態は、車の運転に例えられます。すなわちアクセルを踏みっぱなしの状態が扁桃体の異常な状態で、ブレーキが故障して効かない状態が大脳新皮質(前頭葉)の扁桃体抑制不能状態と考えられます。パニック発作は、恐怖を目前にした時のヒトの反応によく似ています。この時ヒトは、恐怖の対象と戦うか(fight)逃げるか(flight)の二者を選択します。このうち逃避は、パニック発作の様々な症状と類似の症状を示します。上記の扁桃体は、パニック発作を起こす脳の中核でありますが、この症状をいかに押さえ込むかが前頭葉の重要な役割であります。我々は最近、恐怖をきたす蛇や蜘蛛の写真をパニック障害の患者と健康正常人に見せ、写真を見ている時の前頭葉の機能を近赤外線モニターで調べました。その結果、パニック障害患者では左前前頭葉の機能が低下していることを見いだしました。このことは、前頭葉の機能が低下しているために扁桃体への抑制機構がうまく働かず不安を惹起するものと考えました。よってパニック障害の治療薬であるベンゾジアゼピンや選択的セロトニン再取り込み阻害薬は、扁桃体や海馬とともに前頭葉に働いている可能性があります。また恐怖の制御はストレスの影響を強く受け、強いストレス状態にある人は、恐怖のコントロールがうまくいきません。このためパニック障害では、強いストレスが持続している人では、薬物療法や認知療法が十分効果を示しません。よってパニック障害の治療効果を上げるためには、いかにストレスを減らすかが重要な鍵となります。すなわち仕事、学業、対人関係、冠婚葬祭などのライフイベントに対しては意識的にそのストレスを減らす試みが重要と考えられます。また幼児期における幼児虐待や分離不安といった人生の早期のストレスも、成人になってからの脳内サーキットに変調をきたしパニック障害などを発症させると考えられています。これは人生早期のトラウマが、脳内神経機構に傷を残し成人に達して何らかのストレスに遭遇した時、脳内神経機構の脆弱性のためにパニック障害を起こすと考えられます。またこの疾患には一部遺伝的なものも含まれています。

パニック障害の病態をいかに日常生活に生かすか

パニック障害を起こしやすいヒトは、元来不安を持ちやすい性格傾向にあり、それが何らかのきっかけで(多くはストレス)パニック発作をきたします。性格傾向としての回避傾向は、人との交わりを苦手としていて話し合いの場では自分の意見を積極的に言うことを躊躇する傾向があります。最近の研究では幼少時期において、虐待などのトラウマを受けた幼児は、成人に達してから「うつ病」や「不安障害」を来たしやすいと考えられています。虐待は、脳の中にある海馬が、ストレスの影響を受け「うつ病」や「不安障害」への脆弱性を来たしていると考えられています。また我々の社会では、ストレスを避けることは不可能であります。個人によってもストレスを受けた時のダメージか異なります。そのためストレス伴う症状も様々で、不安・不眠・抑うつ・高血圧・胃潰瘍・喘息などがあります。よって自己のもつストレスに対する耐性力を把握することは、病気の発症予防に重要です。一般に不安が強いことは、否定的に捉えがちです。しかし人類が未来永劫生きながらえていくためには、不安や恐怖は必須の感情であることはいうまでもありません。

パニック障害の治療法

パニック障害の治療法としては、薬物療法と精神療法があります。薬物療法としては、アルプラゾラム、ロラレパム、クロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系抗不安薬やパロキセチンなどのSSRIが使用されています。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、効果発現には数時間と早いので症状消失にはメリットがあるがベンゾジアゼピンは、長期投与すると常用量依存が問題となります。常用量依存とは、臨床投与量の範囲内でも長期の服用で身体依存が形成され、離脱症状が出現することが知られています。具体的には、投薬開始時の症状は消失したのに、減薬や服薬中止をすると、もともとの症状に加えて、それまでにはなかった症状までも出現する。離脱症状には、不眠、不安、気分不快感、焦燥感、筋肉痛、振戦、頭痛、嘔気、発汗、知覚過敏、離人感など多岐にわたります。これらの離脱症状のために、服薬を中止することが困難となります。精神療法としては認知行動療法が用いられています。
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