卵巣神経内分泌腫瘍の病理組織学的再分類と臨床予後への影響に関する後方視的研究
卵巣神経内分泌腫瘍に対し、膵・消化管神経内分泌腫瘍の新分類(WHO 2010)を外挿し、その病理組織学的再分類が、卵巣神経内分泌腫瘍の臨床像、治療法、予後と相関し、汎用性を有するかを検討します。
1995年1月1日から2014年12月31日までの20年間に、卵巣起源の神経内分泌腫瘍(カルチノイド、小細胞癌、神経内分泌癌、腺内分泌細胞癌)と組織診断を受けた患者さん。ただし、臨床病理学的情報が不十分な方、重複癌の方は除外されます。
◆既に分かっていること
神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor: NET)は、全身の内分泌臓器や非内分泌臓器に広く分布する神経内分泌細胞または神経内分泌細胞へと分化した細胞に由来します。最多の好発臓器は消化管(60%)で、気管支・肺(30%)、膵臓(3.6%)がそれに続きます。NETは、近年その発生頻度は、10万人あたり1.09人(1973年)から5.25人(2004年)へと急増しています。NETの診断には、病理組織における形態学的特徴だけではなく、腫瘍細胞の神経内分泌細胞への分化の証明が必要で、シナプトフィジン、クロモグラニンAの神経内分泌マーカーが免疫組織化学的に検討されます。しかし、低分化(発生した組織の細胞との類似性が少ないという意味です)NETの場合には、これらの神経内分泌マーカーが必ずしも陽性にならないため、Neural Cell Adhesion Molecule(NCAM)、Neuron-Specific Enolase(NSE)などの陽性所見と形態学的特徴とを総合的に考慮して診断されます。
従来NETでは、腫瘍摘出後の臨床経過が腫瘍組織の生物学的特徴によって大きく異なることから、カルチノイド、神経内分泌癌、小細胞癌の3つに分類されてきました。しかし、NETは、発生臓器ごとに一定の特徴的な臨床所見を呈することから、消化管・膵臓NETと肺NETとでは使用する分類が異なっているのが現状です。そのような状況の中、2010年に膵・消化管NETのWHO分類が改訂されました。本分類によって、膵・消化管NETはKi67 indexまたは細胞分裂数の2因子のみから構成される簡便な分類方法によって、NET G1、NET G2、Neuroendocrine carcinoma(NEC)の3つのgradeに大別されることになりました。更にこの膵・消化管NETの新分類の特徴は、膵臓と消化管に発生するNET全体を総称する点にあり、病変が発生する臓器により診断名が異なるという従来の問題点に対し斬新なアプローチをとった点です。
◆分かっていないこと
膵・消化管NETの新分類では、腫瘍のホルモン産生、脈管侵襲の有無という生物学的に極めて重要な特徴を検討項目に入れておらず、更に、NECの中にはいわゆる小細胞癌と大細胞癌に相当する病変が一括して含まれています。希少疾患である卵巣NETにおいて、その悪性度に応じて治療法を選択していくために、多施設で症例を集積し、予後因子を検討することが必要である。
◆これからの課題
今後は、気管支・肺NETや卵巣NETにおいても膵・消化管NETと同様のアプローチが望まれます。そのため、卵巣NETに膵・消化管NETの新分類を外挿することで、それが治療方針の決定、予後の類推など臨床的に汎用性を有する分類であるかを検討するが必要です。
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大分大学医学部産科婦人科学講座/附属病院 産婦人科 助教 甲斐 健太郎
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