われわれの教室では、まず生殖医療などの臨床から得られた疑問点や問題点を基礎研究で解決し、さらにその内容を臨床にフィードバックするという視点で研究を行っています。
特に若い医師たちには基礎的な観点から得られる知見を通して、科学的なものの考え方を身につけるように指導をしています。
当教室では開講当初より、中枢や卵巣の内分泌の研究が行われてきました。
以下に当教室での研究内容を紹介します。
卵胞が発育し、排卵日近くになるとその周囲には炎症細胞が遊走し、さらには血管網が構築されます。
白血球の遊走は排卵前期の血管網を通じて起こり、それには莢膜細胞や顆粒膜細胞に由来する因子の存在も不可欠であり、その結果、白血球の組織内への遊走・浸潤が起こるとされています。
この過程は、ケモカインに代表されるような白血球遊走因子によって助長される。
白血球は初期には低濃度の白血球遊走因子に遭遇することで遊走されるが、徐々に遊走してきた免疫細胞の影響により高濃度の白血球遊走因子が産生され、最終的にはこれらの白血球が活性化されると考えられている。
われわれは卵胞中には高濃度のケモカインが存在することを見い出し、さらには卵の形態的な成熟度とも相関していたことを示しました。(Kawano et al., Am J Reprod Immunol 2001, Fertil Steril 2004).
卵巣におけるこれらの変化は短期間に行われ、毎周期起こるため、これらの制御機構を培養細胞等を用いて研究しています。
Vascular endothelial growth factor は、子宮内膜の増殖、卵胞発育や黄体の形成、胎盤の形成などに関与します。
また、子宮内膜における胚の着床、妊娠の維持には白血球系の免疫担当細胞が関与しており、サイトカインやケモカインの産生が必要となります。
これらの物質を促進的に産生調節を行うのがinterleukin―1、epidermal growth factorや血小板活性化因子であり、このような物質の受容体の下流に存在するのが細胞内情報伝達系です。
われわれは、子宮内膜間質細胞,脱落膜細胞や羊膜細胞における細胞内情報伝達系のprotein kinase C 経路(Nasu et al., Biol Reprod 1999,Narahara et al., J Clin Endocrinol Metab 2003)、sphingomyelin-ceramide 経路(Kawano et al., Fertil Steril 2004)やmitogen activated protein(MAP)kinase経路(Furukawa et al., Fertil Steril 2009, Kawano et al., Hum Reprod 2011)について報告し、これらの経路の活性化でさまざまな生理活性物質の産生が調節されることを明らかにしました。
多嚢胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome: PCOS)は生殖年齢の6~8%の女性に発症し、軽度から重度の排卵障害を来たし不妊症の原因として重要な疾患です。
また、PCOSのなかにインスリン抵抗性を認める症例が存在することから代謝性疾患と関連することが知られています。
Adenosine monophosphate-activated protein kinase (AMPK)は細胞内のエネルギーセンサーとして働きエネルギーバランスを調整しており、細胞内AMP/ATP比の上昇に反応して活性化されます。
近年の報告では、血管内皮細胞や肺細胞においてAMPKの活性化によりインスリン受容体の発現調節や炎症性サイトカインの産生抑制、細胞増殖の抑制、蛋白合成の抑制、抗酸化作用といった様々な作用があることが報告されています。
メトフォルミンはビグアナイド系薬剤に属するインスリン抵抗性改善薬でありAMPKを介して血糖の調節インスリン抵抗性を改善し、生体内の機能調節を行うことが知られています。
メトフォルミンはPCOSの排卵誘発時に併用して用いると効果的であるため、日本産科婦人科学会のガイドラインにおいても推奨されていますが、現在のところ卵巣に対しての直接的な作用機序については明らかにされていません。
また、一定量以上の投与は有害事象が出現するため、投与量に限界があります。
作用機序を解明し、より有効な排卵誘発を行うための方法を検索するため、卵巣顆粒膜細胞におけるメトフォルミンの役割を調べる目的で検討を行っています。