医局会報 序文

非日常が日常化したこの頃

 今年は梅雨入りが520日と過去2番目に早く、これも異常気象のひとつであろうと思われます。これから約2か月間雨の季節が続き、その後暑い夏の到来とともに、1年延期されたオリンピック・パラリンピックが東京で開催される予定です。
 昨年に続き、covid19感染症パンデミック禍の中でこの消化器内科学講座第8号の序文を書いています。この1年間、県外出張はJDDW2020の神戸のみであり、学会・研究会・会議はオンラインによるリモート出席が日常化しました。「Web出席」というものも慣れると大変便利です。ぎりぎりまで他の用事をこなすことができますし、終わると同時に別の仕事に着手できます。つまり、大分と用務地(大概が東京)との交通移動が省略される最大のメリットがあるわけです。またメリットは移動だけではなく、講演や学会発表の際のスライドにもあり、内視鏡像や病理組織像などは、学会会場よりパソコンで見たほうが鮮明ですし、会議での討論も慣れると遜色なく可能となってきました。
 しかし、最大のデメリットは、同一空間で対話ができないことです。私の教授の任期も3年を切っており、これまでに大変多くの全国の医師や研究者と、直接対面で議論や会話をしてきて、時には一緒に食事をし酒も飲みました。それゆえ、現在のリモート対面でも「あの時のあの先生」、という具合に、抵抗なくスムーズに対話が可能となります。しかし、人間同士が別々の空間にいる状態の中、オンライン上で出会い会話をすることは、やはりバーチャルなある種異常な状況だと思います。特に、若い人たちがこのバーチャルな対面から人間関係を構築していくことは将来にどのようなかかわりになるのか、何となく不安になります。わが国でもワクチン接種が進み、東京出張もしんどいですが、従来の日常に戻ることが待ち遠しいです。
 さて本号で昨年を振り返ってみますが、6月の新入局員歓迎会は中止、12月の忘年会も中止となりましたが、年末に医局総会と同門会総会のみが行われました。集談会では4名の学位取得者の発表が行われました。恒例の医局旅行も中止で、医局総会でじゃんけんゲームができたのがささやかなレクレーションとなりました。11ページにありますが、令和3年度新入局員は相馬先生、寺師先生、照山先生、濱野先生、伏見先生の皆さん令和元年大分大学卒の5名です。みんなやる気満々で優秀で人間性も素晴らしく、私も大きな期待をせずにはいられません。
 令和2年度入局の5名の先生(峯崎先生、麻生先生、木下先生、児玉先生、成安先生)の入局後1年間の振り返りを読ませてもらうと、皆さん大変充実した後期研修をしている印象です。消化器内科医として、また社会人として成長されることを楽しみに願っています。
 大学院卒業者研究報告では、4名の先生が学位論文の内容を紹介してくれています。所先生は内分泌代謝内科と消化器内科との共同研究でNAFLDに対するビタミンEの効果を検討しました。研究期間が少し長くなり、奇跡的とも思われる論文アクセプトのメールが来たのを昨日のことのように思い出します。岩尾先生も内分泌代謝内科とのコラボで学位を取得しました。BCAANAFLDの関連性に次世代シーケンサーを用いた腸内細菌叢の解析を絡めた論文を作成しました。この次世代シーケンサーによる解析は今後の当講座の研究に応用されていくことと期待します。和田康宏先生は胃底腺にできる化生性変化、おもに幽門腺化生、偽幽門性化生、SPEMについて研究しました。消化管病理で大変有名な滋賀医大病理の九嶋教授のもとに2年間国内留学し、胃の病理をしっかり学んできました。現在、渕野先生とともに膵上皮化生の論文も仕上げにかかっています。和田蔵人先生はNBI併用拡大内視鏡で認識されるWOSについて検討しました。この研究は大分赤十字病院に3年間勤務し、上尾消化器内科部長のご指導のもと、成し遂げられた臨床研究です。臨床の業務が忙しい中、業績として論文ができたことは大変すばらしいことと思います。
 昨年はコロナ禍で海外への出張はほぼ皆無でした。が、その中で、平下先生はご家族でニューヨークに留学してきました。31ページからの海外留学活動報告を読んでいただけるとその様子が良く描かれています。ニューヨークの感染者数や死者がものすごい勢いで増えている中、ロックダウンなども経験し、また観光名所も周り、大変貴重な経験をして無事に帰ってきました。今後の研究の発展にも期待しています。
 原著論文を含む業績や獲得した競争的資金は本誌の後半に記載されています。まだまだ業績としては物足りないのですが、臨床の講座としてバランスよく、少しずつでも増えていけばと思っています。本当は、1年に1報の原著論文を期待していますが
 6月中旬現在、緊急事態宣言のもと全国的にcovid-19感染者数は減少傾向にあり、大分県でも最近はひと桁になってきています。私事、JDDW2022福岡の消化器病学会大会の会長もいよいよ1年後となってきており、私はJDDW運営委員会の委員長として、学会プログラム委員の選出や海外からの招待講演者の選定などに着手しています。日常がいつ戻るのかつかめない状況が長く続いてますが、大分県の医療の充実、消化器内科医の育成、世界に誇れる診療と研究を目指して医局員一丸となって全員で頑張っていきたいと思います。関連病院ならびに同門の先生方のご指導・ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。


2021年6月       大分大学医学部消化器内科学講座教授 村上 和成