25班 膝関節の構造と機能

 

膝関節は人体最大の関節であり、また、最大の荷重関節でもある。ヒトは直立二足歩行を獲得することで下肢が固有に移動運動に使われるようになった。その下肢は体重支持、安定化を図る上で、一見単純な構造のように見えるかもしれないが、その構造と機能は大変複雑である。25班では改めて、膝関節の基本構造と機能について理解することを目的として、本テーマを選んだ。

 関節はおよそ胎生第6週に分化し、第8週では成人の関節と類似したものとなる。膝関節においては以下のようなような発生経路をたどる。

 〜膝関節の発生〜

胎生第4

大腿骨、脛骨、腓骨に相当する部に軟骨形成の開始

〃第5

将来の関節に相当するところに中間帯間葉の形成

〃第6

膝蓋骨の軟骨原基が出現

〃第7

中間帯間葉が半月板に分化

 

関節靭帯の原基となる細胞の濃縮

〃第8

半月板の明確化

 

半月板と脛骨間に空隙出現

〃第9

膝蓋大腿関節腔の明確化

 

関節側幅靭帯の発達

 

膝十字靭帯への血管、神経の侵入

〃第10

関節腔の伸展 豊富な血管分布

〃第10週後半

半月板の形状が規定される

〃第15

血管網が内側では全幅の1/2、外側では1/3まで進入

 

靭帯の原基が膠原線維に変化

〃第21週後半

半月板を形する膠原線維の密性化

 

栄養血管が関節近位・遠位両端から進入

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膝関節のような、滑膜を有する滑膜関節では、発生中に出現する骨と骨の間に存在する間葉のことを中間帯間葉とよぶ。これが分化して、その周辺部には関節包や靭帯が形成され、中心部がアポトーシスにより消失してそれによって生じた空隙が最終的に関節腔となる。膝関節では中心部が一部残存して半月板を形成する。また間葉が線維性関節包の内面や関節表面を覆うところでは、間葉は滑膜を形成する。そして関節運動が始まると、関節面の間葉細胞は消失する。はじめは血管のなかった中間帯間葉は血管の豊富な間葉性滑膜となる。これが滑膜関節の発生である。

 

 

1.  膝関節の構造

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.膝関節の運動機能

膝関節に存在する運動軸と運動機能

 水平−左右軸上での屈伸運動、上下軸上での回旋運動、水平−矢状軸上内反・外反運動、その他、関節の遊びとして臨床的には前後方向へのずれ運動、内・外側へのずれ運動、引っ張り、圧縮の運動なども膝関節の運動の範疇に含める。内反・外反運動、前後方向へのずれ運動、内・外側へのずれ運動、引っ張り、圧縮などの運動は可動域がごくわずかである。

 下肢のアラインメント

 (立っているときに大腿骨とケイ骨が地面に対してどのような関係にあるか)

下肢の機能軸は膝関節の内側をとおり、通常荷重は内側よりにかかる。また正常の場合、大腿骨ケイ骨角は180度以下ではややX脚になる。そして下肢は必ずしも地面に垂直ではなく、約5度程度外側に傾斜している。

Screw home 運動:伸展の最後の20度で起こる脛骨に対する大腿骨の自動的内旋。

自動内旋には、膝窩筋が密接に関係する。

意義

Screw home運動を終えると靭帯および関節包の軟部支持組織が緊張し、膝関節は大きな外力に耐えうる最も安定した状態に導かれる。

   ↓

膝関節が伸展位でしっかりと固定されること(ロック現象)は、人間の起立保持を可能にしている要因の一つである。

 

膝の屈伸運動はころがり運動すべり運動によりおこる。(図1)

  ころがり運動:面上を回転しながら移動していく。

  すべり運動:面上を回転するが、移動はしない。

 

膝の屈伸運動でころがりすべり運動が起こる理由

@         大腿骨の関節面の長さ>脛骨の関節面の長さなので、ころがり運動だけでは大腿骨の関節面が脛骨の関節面から外れてしまう。(図2)

A         すべり運動のみでは、大腿骨と脛骨関節面の後縁との間で接触が生じ屈曲は制限される。(図3)

         いずれも図中の@・Aの局面では問題ないがBの局面で問題が起こる。

 

Screw home運動がおこる理由

外側顆が内側顆よりも小さい。(図4)

最終伸展局面において、外側顆の脛骨における接点はほとんど移動せず、外側顆は半月の上を滑走する。

内側顆の脛骨における接点は移動するので、内側顆は半月の上を回転する。

↓    (過度の転がりは内側側副靭帯により制御される)

外側顆は半月上をほとんど移動しないが、内側顆は半月上を移動する。→大腿骨の内旋がおこる。

 

 

 

3. 膝関節の静的・動的安定性機構(表1参照)

<内側支持機構>

 静的支持機構  内側側副靭帯、内側関節包

 動的支持機構  縫工筋、薄筋、半腱様筋、半膜様筋、腓腹筋内側頭

 内側半月板は内側関節包に全周にわたって強く付着している。

 内反の制御  外側側副靭帯の浅層

 下腿の外旋の制御  内側関節包の深層

  〃 内旋の制御  前十字靭帯

 

<外側支持機構>

 静的支持機構  外側側副靭帯、弓状靭帯、関節包靭帯

 動的支持機構  大腿二頭筋、膝窩筋、腓腹筋外側頭、腸脛靭帯

 外反の制御   後十字靭帯、内側側副靭帯

 下腿の外旋の制御  内側関節包の深層

  〃 内旋の制御  前十字靭帯

 

<関節内支持機構>

 内・外側半月板  荷重の分散、衝撃の吸収性や関節の安定性

前・後十字靭帯  回旋の制御機構

 

 

 

表1 膝の静的安定性と靭帯組織の緊張

(+が多いほど緊張度は強い。−は弛緩を表す。0は全く関与しないことを示す。)

 

伸展

過伸展

屈曲

内旋

外旋

ACL

+

++

+-

+++

0

PCL

++

++

+++

+

+++

MCL

++

 

++

+

+++

LCL

++

 

+

+

+-

(ACL 前十字靭帯、PCL 後十字靭帯、MCL 内側側副靭帯、LCL 外側側副靭帯)

 

 

 

4.後外側構成体について

後外側構成体;膝関節外後方に位置する複合靭帯系の総称。膝関節後外側の回旋の

       安定性に関与している。交通外傷やスポーツ外傷などにおいて他の

       靭帯損傷と合併して、損傷が起こりやすい。

 <構成成分>(下図参照)

外側側副靭帯:膝の伸展、外旋時に緊張し、膝外側部を安定化する。

膝窩筋腱:非荷重時には大腿骨外旋力に、荷重時には大腿骨内旋の制動力、

     および抗内反力となる。

弓状膝窩靭帯:後外側の関節包を補強し、膝伸展位で緊張し関節の外側安定

性に役立っている。

膝窩腓骨靭帯:屈曲時、膝窩筋腱の滑車の役目を果たす。

半月膝窩靭帯:外側半月の転移を防止する。

 

 

 

 

5.膝関節の障害とその治療法について

 膝関節は非常に複雑な構造をとっている。膝関節を取り巻く筋や靭帯は多数存在しこれらはそれぞれ膝の過度の内反・外反などの制御にあたっている。ある運動の制御を行っているのは複数の筋や靭帯であることが多く、それ故に膝関節の障害は複合損傷であることが多い。ここでは膝の正常な運動が障害されるときの靭帯損傷について述べる。

 

膝関節の安定性に関与する主要な靭帯がどのような運動を制御しているのかを表1にまとめる。詳細は『膝関節の運動機能』参照。

 

表1 膝の静的安定性と靭帯組織の緊張

(+が多いほど緊張度は強い。−は弛緩を表す。0は全く関与しないことを示す。)

 

伸展

過伸展

屈曲

内旋

外旋

ACL

+

++

+-

+++

0

PCL

++

++

+++

+

+++

MCL

++

 

++

+

+++

LCL

++

 

+

+

+-

(ACL 前十字靭帯、PCL 後十字靭帯、MCL 内側側副靭帯、LCL 外側側副靭帯)

 

 この表を参考にしながら膝周囲靭帯の損傷について考えていく。

  MCL(内側側副靭帯)損傷

下腿が過度に外反したとき、下腿の過度の外旋が生じたときなどに損傷する。単独損傷の場合、保存的治療法(サポーターやギブスなどで固定し、手術を行わない方法)が主流である。複合損傷の場合(他の靭帯が合併的に損傷している場合)は手術治療を行う必要がある。これは陳旧性MCL機能不全に対する確実な治療法がないからである。

  LCL(内側側副靭帯)損傷

下腿の過度な内反・過度な伸展が生じたときに損傷する。

  ACL(前十字靭帯)損傷

脛骨が過度に内旋したとき、過伸展を起こしたときなどに損傷する。保存的治療法では機能修復が期待できない。しかしむやみに手術を行うことが必ずしも良好な予後を約束するとは限らない。日常生活においては必ずしも大きな損傷とはなり得ないので、手術の必要性を慎重に見極める必要がある。

  PCL(後十字靭帯)損傷

ACLと同様であるが、その損傷頻度はACLより低い。またPCLは屈曲を制御している靭帯でもあるので、過度な屈曲が生じたときにも損傷される。自覚症状がほとんどなかったり筋力強化で機能が代償されることもあり、単独損傷では手術適応は比較的少ない。ところがこれはPLSと合併的に損傷されることが多く、この場合は手術を行う。(陳旧化したPLS損傷は特に再建術が困難であるため。)しかし、PLS損傷は外見では非常にわかりにくく、現在整形外科でも特に注目されている分野である。

  PLS(後外側構成体)損傷

PLSは Post Lateral Structureの略である。上にも述べたようにPCLと合併損傷されることが多い。後外側構成体を構成する筋や靭帯については、『後外側構成体について』参照。構成筋群は非常に微細な構造のものが多く、見た目ではその損傷は非常にわかりにくい。合併損傷が多いのは、PLSが膝の運動全てを補助的に制御しているためである。しかしながら、PLSの機能は未だ完全に解明されたわけではなく、構造もはっきりしないため、現在整形外科で研究が進められている分野である。