U 教育内容面での取組み

 

1.医学科の教育内容

現状の点検と評価 

 本学科では平成12年度入学生から新教育カリキュラムを導入した。従来の一般教育等、専門基礎、専門臨床、臨床実地と分かれていた教育課程を大きく第一期:教養・基礎教育、第二期:専門基礎教育、第三期:臨床実習の3つに分けた。

 その特徴は以下の5点である。

1)専門科目に単位制の導入

2)イントロダクトリーコースの開設

3)臓器別、機能別に統合したチュートリアル教育の採用

4)クリニカルクラークシップの採用

5)学生による教育評価の採用

 この教育課程により

コミュニケーション能力を有し、患者と対話できる医師

医療倫理に則り、患者本位の医療を展開できる医師

患者に対してインフォームド・コンセントを行う能力を備えた医師

<4>生涯学習能力を有し、コメディカル・スタッフと連携してチーム医療を実践できる医師

医療事故の防止や感染対策など安全管理能力を備えた医師の育成を目指している。

 

(1)新カリキュラムの概要

1)単位制の導入:他大学との授業の交換、社会人・学士編入学など人的交流が増す。

2)イントロダクトリーコースの開設:各期間の最初にはイントロダクトリーコース(イントロ) I、U、V が各々3週、6週、7週間設けられた。各コースではグローバルスタンダードを踏まえた内容を用意し、医学の動向を取り入れる配慮を行い、医学に対する動機づけを高めている。イントロIは従来1年次の夏休みに行っていた本学の近郊にある病院、老人保健施設などでの介護・看護早期体験実習を入学直後の4月に実施し、プライマリケアやインフォームド・コンセント及び介護・福祉等の教育を行い医学への学習動機を向上させる。イントロUは2年次後学期開始直後に、医学専門教育を始めるに当たり生命科学入門、基礎生化学など教養・基礎教育と医学専門教育の有機的結合を図る。イントロVは4年次3学期の臨床実習開始直前に、医療面接、臓器別・機能別の身体診察、医療記録、基本的な診断能力の修得、処置・検査技術の習得、等を行わせ OSCE で評価を行う。またこの期間の講義では、医療倫理学・心理学等の新しい授業科目を開設した。

3)統合カリキュラムの採用:従来の基礎医学、臨床基礎医学、社会医学、臨床医学を融合し、それらをできる限り臓器別・機能別に統合カリキュラムを組んだ。これにより講義の重複を避け、教官による講義時間を削減し、学生の自学自習と問題解決能力の開発を目指したチュートリアル教育方式を導入した。1学年を12グループに、1グループ8人の少人数学習体系で医学に関する学習のみならず、人前での決められた時間内に発表し、また、他の学生の意見を聞いて討論、コミュニケーションの訓練を行う。開設科目は以下の通りである(括弧内は履修週数)。人体構造概略(5)、細胞と組織(正常編)(3)、細胞と組織(病態編)(4)、病原体・感染・免疫(4)、造血器(2)、皮膚(2)、運動器(3)、神経・筋(5)、行動・精神・心理(2)、特殊感覚器・頭頚部(5)、呼吸器(3)、循環器(4)、消化器(5)、周術期医学(2)、泌尿生殖器(4)、内分泌・代謝(4)、ライフサイクル医学(4)、社会医学(4)、治療(2)。

 現在、他大学でも教育改革が進んでいるが、現時点で本学と同様な開設科目を用意している大学は必ずしも多くない。将来、大学間の単位互換のためには科目名の変更が必要になってくるかもしれない。

4)クリニカルクラークシップの採用:従来の臨床実習は5年次後学期から「学生」として教官からベッドサイドテイーチングを受けていた(臨床見学型)が、新カリキュラムでは5年次前学期から臨床実習を開始し、学生を医療スタッフの一員として加えたクリニカルクラークシップ制度を採用した実習形態(臨床参加型)を採用する。またローテーションは内科、外科といった診療科を解体・再編し、臨床消化器、臨床呼吸器、臨床循環器等の臓器別に改めた。

5)教育評価:学内には大学評価委員会、教育評価委員会、研究評価委員会、医療評価委員会の4つの評価委員会が構成されている。この内、教育評価委員会が中心となって、平成12年度から全学的な学生による授業評価が開始された。この目的は、評価の結果を教官にフィードバックして、授業内容の改善に資することであるが、評価の結果は現時点では教官個人に知らせるだけで教授会や学生に公表はされていない。

 

 次に大きく3期に区分される本学科の学部教育について述べる。第一期は入学から2年次前学期までの1年半で、主に教養・基礎教育科目を履修する。第二期は2年次後学期から4年次2学期までで、専門教育科目の講義、並びに基礎科目実習を履修する。第三期は4年次3学期から6年次後学期の卒業までで、専門教育科目の臨地実習を行う。第一期での入学定員は85名であるが、第二期の始まる2年次後学期に10名の学士編入学生が加わり第二期からは95名で履修する。

 第一期では開設授業科目を従来の6分類を (1) 人間コミュニケーション科学と(2) 自然科学の2大分類にし、新たに人間と倫理、人間行動の心理学、現代社会と人間、心の発達学、健康心理学、日本語表現学、知の構造と社会、医療情報学、医療情報システム学など現代のニーズに応じた選択授業科目を用意した。また、有効な一貫教育を推進するため、従来の一般教育等で開講していた生物学、化学、物理学の一部、医学英語、医用工学をイントロUの中に、医療倫理・心理学及び医学英語はイントロVで開講するようにカリキュラムを改変した。

 第二期では従来の専門基礎科目(解剖学、生理学、生化学等)の講義・実習と専門臨床科目(内科学、外科学、小児科学等)の講義を再編し直し統合カリキュラム(前述)を導入した。また、3年次4月に3週間、4年次2学期に9週間、各々研究室配属初級編と上級編を用意し、各講座で行っている研究を見学させ、また上級編では実際に研究等に参画してもらい、場合によっては論文に纏められる期間とした。これは学内の各講座等での研究・実習に留まらず、学術協力協定を締結しているドミニカ共和国医学教育センター、中華人民共和国河北医科大学、フィリピン国立サン・ラザロ病院(感染症専門病院)での履修も可能であり、もちろん指導教官の監督下に国内外の大学、研究所での研究もできるように配慮した。なお、詳細は後述するが、本学ではこの第二期履修後、直接大学院に進学するMD/PhDコースが制度化され、大学院修了後、場合によっては再び5年次に編入できる。

 第三期でも内科、外科といった診療科を解体、再編し、消化器、呼吸器、循環器等の臓器別に改めた。学生は従来の「見学・介助」と言われた臨床修練から、スタッフの一員に加わり一定の条件(指導教官の指導・監視等)の下で実技実習を行うクリニカルクラークシップ方式でそれらの診療科を履修することになる。(国公私立共通コアカリキュラムヘの対応)

(2)旧カリキュラム履修学生に対する対応

 現在の3年生以上の学生は卒業まで旧カリキュラムでの履修が続くことになるが、可能な範囲で新カリキュラムの精神を取り入れた改善を行っている。そのうち、5年生後期からの臨床実習開始前に行っていた内科診断学等が、参加する各講座の教授法がまちまちであり、体系化されていないことなどの学生から要望があったこともあり、平成12年度から内科学3講座、臨床薬理学講座、総合診療部などが講座の枠をこえて、専門別に頭頚部、胸部などの8つのグループに再編成され、それぞれのグループで診察の方法等のビデオテープ作成、教育マニュアルや評価法なども検討し、集中的に教育することにした。これまでのところ学生や臨床実習担当教官のあいだでは大分改善されたという評価である。学生による授業評価は旧カリキュラムの学生にも行っている。

(3)2年次後学期学士編入学生に対する対応

 新カリキュラムは2年次後期入学の学士編入学生にも対応できるように設定されており、基本的に同じカリキュラムで履修を行うことができる。しかし、本学では、学士編入学生(定員10名)を入学させる目的を「単に臨床医を志向するのではなく、生命科学、予防医学分野の研究を積極的に志向し、国際医療協力に携わるような国際性を備えた医師、研究者を育成する」とし、そのような学生を選抜したこともあり、一般選抜で入学した学生とは一部異なるメニューを用意してある。夏休みに大学が定期的に行っている僻地医療への参加の義務付け、上記の研究室配属上級編(9週間)では、優先的に基礎講座や社会医学講座への配属そしてその中で、国外の学術協定締結校や本学が10年以上行ってきた国際医療協力や医学交流の現場(ドミニカ共和国やフィリピン共和国)での見学実習などを行い、生命科学や予防医学研究そして国際医療協力への興味や重要性を認識させることにしている。

将来の改革・改善に向けた方策

 新カリキュラムは未だ始まったばかりであり、その評価は一部(1年生のイントロIなど)で良いという評価が得られつつあるが、大方は今後への期待の声が多い。これらの期待に背かぬよう、日々、教官や学生の声に耳を傾け、改善に努力する体制づくりが重要と考えられる。なお、学生による授業評価は、現在、得られた結果を、その信頼性、妥当性の観点から詳細に解析を続けており、教授会などで同意が得られれば、教官個人の評価も公表して行く必要があると考えている。