V 教育方法及び成績評価面での取組み

.医学科における取組み

(1)教育業績評価の現状

一般的に言って、教官の教育活動に対する評価とその反映は、従来殆どなされておらず、教官がいくら熱意を燃やし、また時間と労力を費やして教育活動を行っても、その評価につながらず、逆に教育に時間を割いただけ、その教官が評価を受け得るであろう研究論文作成に割く時間が少なくなっている。このことが、いろいろな局面での教育が、従来から受け継がれてきた手法の踏襲に留まり、時代に則した新しい効果的な教育法への改善が進まない理由と考えられる。

 本学で平成12年度から教育方法の改善等を目的として開始した「教官に対する教育業績評価」は、教官が担当する教育活動の内容や方法、その効果を判定し、その結果をフィードバックすることで、教官自身の教育方法や態度、能力の改善をはかることを第一の目的とする。第二に、評価結果を研究費や昇級、昇進などの査定に利用することで、教官の教育活動に対する意欲の向上につなげる。第三は、教官採用時に、研究業績や診療実績に加えて、選考資料としても利用できるようにするものである。

(2)教育業績評価の方法

 教育業績評価として、まず学生による講義、実習、チュートリアル教育(チューター及びチュートリアルコースの企画など)の評価を一貫性をもった形式で行う。(資料1)次に、教官自身が自己の教育活動に対して定期的(一年ごと)に行う自己点検評価(資料2)、将来的にはさらに第三者による評価として同僚教官や教育活動を監督する立場の教官(教授、教育担当学内委員など)、他大学の教育担当委員などによって、当該教官の講義や実習などの際に授業参観の形で行うことを考えている。

 なお、以下にそれぞれの具体的実施要領項目の基本的共通項目に対する現状の点検と問題点、将来の改善に向けた方策を列記する。

 1)教育・学習指導の方法や体制の工夫

@分かりやすいシラバスの作成状況と活用状況:授業内容が難解で、教官の自己満足的で専門的すぎる授業を避け、主題、概要、到達目標、成績評価法などを明示し、分かりやすいものとしている。

A効果的な講義の工夫:学生に対する理解、質問のしやすさ、教材、知的好奇心を刺激し、学習意欲や研究、医療に対する意欲を刺激させる。関連する疾病の基礎病態や臨床像の授業が講座教官間の連絡が不十分であったり、教官の格差が大きいと講義の満足度やモチベーションの低下に繋がる。

B臨床講義における講義とベットサイド実習との関連:実地臨床と関連づけた授業、実習の工夫として、臨床症例問題に対し、それを解決するために、必要な知識や技術、基礎病態を複数の講座教官が参加して講義するクリニカルカンファレンス(C.C)、臨床病理カンファレンス(C.P.C)の導入や、臨床教授の制度を導入、拡大し、実地医家による講義や実習指導を受ける機会を導入した。

C前臨床実習教育(基本的臨床技能教育)の工夫:旧カリキュラムでは臨床実習に入る直前の約2週間、内科診断学を各講座単位で行っていたが、前述したように、担当5講座のスタッフを講座の枠をはずし、身体の部所別の8グループに再編成し、それぞれのグループで診察法などのマニュアルや、ビデオ作成、さらには評価基準を作成し、実習の最後に行うOSCEで評価することにした。新カリキュラムでは臨床実習に入る直前の4年生3学期をイントロダクトリーコースVとし、ここで医療面接法をはじめ基本的臨床技能教育を行なうことにしているが、現時点では新カリキュラムの適応を受ける学生がここまで進級してきていない。

D臨床実習の工夫:新カリキュラムでは、従来の見学主体のものから治療チームの一員として実習を行なう臨床参加型いわゆるクリニカルクラークシップ制度への転換が決まっている。

E選択科目制度や研究室実習など知的好奇心の工夫:本学卒業生の大学院進学は少なく、定員を充足するのに外国人留学生に依存しているのが現状である。特に、基礎医学系大学院への進学者が少ない事が懸念される。基礎医学系大学院への進学を増やすために3年次4月に3週間と、4年次2学期に9週間研究室配属をし、実際研究に参画する機会を増やした。平成13年度より学士編入制度を導入し、基礎医学志向の学生を募集、入学するように努めた。また学術協力協定を締結しているドミニカ共和国医学教育センターや、中華人民共和国河北医学大学、フィリピン共和国サン・ラザロ病院での研修も可能とし、国際的視野を持った研究者や臨床医の養成にも努めている。

F自主的思考能力や問題解決能力(課題探求能力、自己学習能力)の開発の具体的方策:平成12年度入学生より新教育カリキュラムを導入し、チュートリアル教育方式に順次移行している。

Gコンピュータを効果的に利用し、講義や実習の予習や復習が出来る教育(CAI:computer-assisted instruction):CAIはあくまで、補助的教材としての利用であり、自主学習や教科書の読破の代用ではなく、教科書を主体とした自学自習の学習環境の整備を行っている。

 以上の各項目は、制度としてカリキュラムに反映し全学的に行うものもあるが、講座あるいは教官自身の判断だけに任されているものもあり、このチェック体制が充分であるとは言えない状況である。教官各人の教育への意識改革が特に望まれる。

(3)適正な基準による厳正な成績評価

医学・医療サービスの最終的受益者は社会(患者)である。すなわち医学教育は社会への奉仕者を育成することであるという視点に立って行なっている。基本的には学則にそって行なっているが、旧カリキュラムではいわゆる学年制をとり、専門教育に入ってからは、4年次前期、5年次前期に大きなバリアーを設定し、1科目の不合格でも進級できない制度を採用してきた。

 新カリキュラムでは単位制の採用、チュートリアル制度の採用もあり、複数の講座の教官が1コースの教育の評価を行なうことになっており、適切で厳しい評価が如何にすれば可能なのか、現在評価の方法を鋭意検討中である。