2.看護学科における取組み

(1)教育・学習指導の方法や体制が工夫されているか

 1)分かりやすいシラバスの作成状況と活用状況(一般目標、行動目標の明示等)

 看護学科では、看護学における主要な概念と教育課程の構造、さらに各科目の位置付けについて入学時にガイダンスを実施している。各科目のシラバスには、教育のねらい・教育目標、Time table、評価の方法と基準、参考文献等について記述している。

 各科目の開始時にシラバスを配布することによって、学生は科目の学習目標がわかり、授業の進度や内容を理解している。また学習内容の理解に関する自己評価の手立てになり、自己学習にも役立っている。さらに学生と教員相互に同じ目標や方針に向かって学習活動ができることにより、教育・学習指導の効果を高めている。今後、コンピュータを活用したシラバスの活用も検討中である。

 2)効果的な講義の工夫

 学生の思考過程や問題解決過程に焦点をあてた教育方法や、自らの身体を通して実感することによって学生が興味を持てるような学習形態を導入している。

<事前課題>;講義に関連する文献やビデオを事前に提示し、講義内容の理解を促している。これにより学生の授業に対する興味を引き出したり,より具体的な学習目標を設けることができている。

<自己学習>;学生が自ら学ぶための「学び方を学ぶ」ために、セルフラーニングの機会を設けている。その際、教員はファシリテーターとして存在し、学生の学習の保障をしている。この学習経験は、自分で学習課題を見出したり、その課題を解決する学習の基盤創りとなっている。

<感想カードの活用>;学生が授業中に感じたことや気付いたことを授業直後に自由に書いてもらうことで、学んだことを整理・振り返る機会にしている。教員はその内容を教材化して次回の講義を展開したり、学習内容の調整を行っている。

<学習への動機付け効果>;臨地におけるフイールド調査、個人毎の課題設定などを取り入れたグループ演習により、学生が主体的に学ぶ環境を調整している。

<授業案の検討・評価>;学生が看護の専門知識や技術・態度を統合的に習得できるよう、教員間で学習の方向性を確認したり、有効な教授方略を検討している。また教員同士で授業に参与し、各学生の学習ニーズに応えるよう協働的に授業運営を行っている。授業終了後には、教員間で学生の反応を中心に授業を振り返り、その内容を次回の授業に生かしている。

<教材開発>;学習内容を段階的且つ継続的に発展させていくために、領域内および領域や講座を越えて調整を行なっている。関連のある科目担当教官で、同じ教材を用いながら効果的に授業展開できるように教材開発のプロジェクトを組んでいる。

 

学習内容が複雑化し、学生のレディネスが多様化する現在、これらの教育方法がすべての学生に有効に機能しているわけではない。個々の学生に対応できる教育方法をさらに探求していく必要がある。

3)臨床教育における講義と臨地実習との関連

 臨地実習は,授業の一環であるとともに,学生がそれまでに学んだ講義や演習の確認または統合の場として位置付けている(その関連は看護学実習要項に明記し、オリエンテーションを行っている)。臨地実習に際し、各看護学の講義・演習で使用した教科書や参考文献・図書,資料を用いて学習に取り組むように指導している。

 学内では、理論的内容だけではなく、病体験のある人に講義に来ていただき、直接学生が患者と対話できるようにしたり、ロールプレイや模擬患者といった教育方法を取り入れることで、臨場感のある講義・演習の展開を行っている。リアリティがあり、かつ実習では学べない内容・方法(場面の再生により援助技術の修正ができたり、自分の考える看護技術を試みることができる、など)は、臨地実習では不可能な、試行錯誤の学習を可能にする。学生はさまざまな学習過程を経て援助の課題を見出し、解決していくための手だてを考えている。

 学生はこれらの学習経験を元に実習の場に臨み、病者と向き合った時に始めて「病むことの意味」を実感している。そして学内では学び得ない「その人にあった看護」の探求をしている。教員はこのような機会を逸せず、学生の経験を教材化(発問やカンファレンスのテーマなど)することで、これまで学んだ理論、知識、技術を活用しながら看護の対象であるその人の理解が深まるように援助をしている。また、学生同士の疑問や感想を共有し、実習体験を既習事項と結びつけることができるよう実習体験の意味付けを促している。

 学生は実習を通して得た看護への興味や知的好奇心から,看護学を学ぶ意欲が喚起されることが多い。教員は、学生の実習体験から看護の意味が探求できるよう、理論的知識を活用しながら演繹的且つ帰納的に学習できるよう支援している。

 

4)前臨床実習教育(基本的臨床技能教育)の工夫

 臨地実習に必要な看護技術が復習できるよう、演習を組み入れている。デモンストレーションや体験学習など、教育の目的によりその方法を変えている。

<ロールプレイ>;援助することを関係性から捉えるために、ロールプレイを導入し、患者の気持ちに近づける機会を作っている。

<模擬患者>;模擬患者を用いることで、看護者としての自己を自覚し、状況に応じた援助の必要性を実感している。看護者としての役割を具体的に学ぶ場となるため、学生の学習の動機付け効果が大きい。

<事例患者>;学生が患者像をイメージできるよう、事例患者を設定し、患者像をイメージしながら看護技術が習得できるよう支援している。また、事例患者を用いた治療的コミュニケーションの演習やセルフケア理論を活用した演習も行っている。

<臨場感ある実技テスト>;看護技術では、形成評価として単元毎に実技チェックを実施し、科目の最後に総括的な到達度の評価として実技テストを実施している。実技テストは、学生が実習時に出会う援助場面を設定し、患者役割(大学院生や上級生に依頼)を決めるなどより臨場感が得られるようにした。学生にとってテストの場が、看護技術を捉え直す機会となるよう実技テスト後の評価面接を組み入れいる。

<臨床で役立つ身体観察・看護アセスメント学の演習>;人体を正しく理解するために、解剖学見学実習を他の看護系大学よりも時間数を多く取り入れた。その知識をもとに自分自身の身体および学生間で身体的知識を確認する身体観察の実習は、看護アセスメント技術の導入として効果的である。

 カリキュラムの時間上,すべての看護技術を全員の学生が体験できることは難しくなっている。看護の基礎教育において、基本的な技術として学ばせる看護技術項目をさらに精選しながら、一方では学生がより多くの学習経験ができるよう教育的配慮を心がけている。

5)臨地実習の工夫

 看護学科では、臨地実習教育を授業の一形態として位置づけている。臨地実習は、理論および臨床看護学の礎とし、看護の実践や看護の学問的関心や意欲を高め、直接的経験を通じて看護の対象である生活者や看護者である自分の理解を深めながら、看護実践における思考,判断,行為の一連の過程を展開する経験を通して看護の方法を理解することにある。そのため実習オリエンテーションでは、各看護学実習の系統的位置付けを説明し、臨床の特徴を踏まえて学習における態度(事故防止と対処、倫理的配慮)を指導している。

 平成12年度から新カリキュラムとなり、学生の直接的経験を活かした早期(1年次前期)実習を導入した。学生が直接的体験したことを広げ、深化できるよう、カンファレンスや報告会、実習終了後の面接など、経験を基盤にした学習(反省的経験への発展)を心がけた。学生は看護技術を学んでいない段階で実習に臨むことに不安を覚えていたが、そのことが純粋に対象への関心や看護への関心を誘い、有意義な経験となっていた。さらに学生は、入学時当初から「看護への興味関心の不確かさ」「看護者としての自己同一性の不確立」の不安を抱えており、今回の早期の実習は、それらを問い直し意志を確認する機会になっており、アーリーエクスプロージャーとしての意味を持っていた。

 看護は実践の学問であり、学生が『看護』を理解するうえで臨地実習は重要である。そのため学生が看護援助の場面を見たり、援助に参加ができるよう指導体制を整えることは必須である。より効果的に臨地実習を行うために、患者に援助を実施する前に学内演習を行う、などそれぞれの学生にあった個別カリキュラムとしての実習を目指し、指導をしている。

 6)選択科目制度や研究室実習など、知的好奇心の育成の工夫

 知的好奇心の育成とは、自ら学び探求していく力である。看護者としての自律は、看護の対象である人間、あるいはその人を含む状況から学んでいくという力の獲得が前提である。そのために多様な教育方法を導入、開発している。

<グループワーク>;既存の枠組みに囚われず、自由な意見交換のなかから新たな意味を見出していく発見型のブレークスルーディスカッションや、課題解決を目的とするグループディスカッションなど、学生が主体的に学ぶことができる環境を作っている。学生がメンバーと話し合うことで視野を広げたり、自分自身のものの見方や考え方を認識したりする機会となるよう配慮している。

<ゼミナール形式の学習>;看護という学問をさまざまな観点から探求するプロセスを体験できるよう、領域を超えた教員の指導体制をつくった。

<学生によるビデオの作成>;学生同士で看護の援助場面をビデオ撮影し、ビデオ再生をしながらグループ討議を行っている。ビデオの鏡的効果により自分の看護技術を相対的に確認でき、その上で学習が深まるように支援をしている。学生自身が視覚的に援助技術の深化が実感できるよう、学習開始時・終了時にビデオ撮影し、教員と共に評価を行なうことは、教育目標の到達度の確認だけでなく、学生の学習の達成感が得られている。

<視聴覚教材の活用>;講義の全体像の理解を促進するために、既存の視聴覚教材および教員の自作ビデオを講義の中で活用した。また、学生が自由に視聴できるように自己学習室や実習室にビデオを置き、自己学習を支援した。

<教員が作成した教材ビデオの活用>;授業で押さえたい内容を教員がビデオ教材として作成し、授業で活用している。これは授業のポイントとビデオの意図が一致していること、また身近な教員がロールモデルとして登場することで学生の関心を集め、学習の理解を促進する効果が得られている。

<病の体験を聴く>;病を持つ人の生活の個別性を理解することをねらいとし、病を持ちながら生活している人のリアルな「体験」の語りを通して学生が学ぶ機会を作っている。この経験は、学生にとって対象を理解するだけでなく、学生自身が抱く病者に対する偏見や価値観に気付く機会となっている。病気の成り立ちや病者の苦痛を知ることがその偏見を克服することにつながり、それ以降の講義への意欲に効果的に作用していた。

<体験学習(自分の身体、生活を意識化する)>;常態としての自分の身体を意識化すること、自分の身体を通して快・不快の感覚や安楽さを実感するという体験学習を取り入れた。そしてその体験を援助者として活かせるよう指導した。

 今後は学生の知的好奇心を引き出すだけでなく、定着も重要である。そのためには、学生−教員の関係性の構築が必要となろう。

7)自主的思考能力や問題解決能力(課題探求能力・自己学習能力)の開発の具体的方策

 各教員が、学生−教員関係を中心とした授業の形態(個別的課題学習、グループ課題学習、問題解決学習など)を工夫することにより、主体的で参画的な態度や批判的思考、判断力の育成を行っている。そのためには教員から学生への一方向的な講義ではなく,学生が学習した内容を発表しそれについて討議を行うなどの工夫をしている。

<グループワーク>;ある課題について自由研究をしたり、学生が課題設定したテーマでフィールドワークを行う、などグループダイナミクスを活かしながら学習を深めている。

<問題解決思考を用いた演習>; 演習や実習を行うにあたり、学生の行動目標や行動計画さらに学習の自己評価を行うことを指導している。

<課題設定型学習>;新聞やインターネットの記事から学生が関心のあるものを自分達で選択させグループごとにディスカッションを行い、その成果をポスターセッションで発表している。これは学生の関心を学習化するための手続きとなり、知的探求過程を辿る経験となっている。

<ディベート>;今日的な話題を取り上げてディベートを行うことで、情報収集の重要性、その表現力、意見の論理性・説得性などについて学ぶ。他者との議論の際、緻密且つ大胆に論理を展開することや、論破するための計画性といったプロセスの重要性を学ぶ機会になっている。

 学生は、自分の課題に気づいても、それを意識化し問題解決していくためには、講義・演習・実習の中で学生が内省する時間や場、教員の支援が必要である。学生は、大学入学前までは受け身の学習が中心であり、入学直後から自主的思考能力や問題解決能力を求められることに戸惑いを感じている。問題解決能力を短期的に育成し、評価することは困難である。教員は縦断的評価の視点を持ち、長期的観点に立って取り組む必要がある。今後も学生の思考能力や問題解決能力を支援する方法について検討を重ねつつ、その評価の実施が必要である。また教育・学習の場に限らず、学生生活全般の中で育成し支援していく体制を整えていきたい。

8)コンピュータを効果的に利用した教育

 インターネットから最新の情報を取り入れ、学生の関心を高めている。グループワークの際に必要な情報をインターネットで検索したり、パソコンによる統計解析の演習を行っている。また、学生の演習場面をデジタルカメラで撮影してパソコンソフトに取り込み、学生自身が自分の学習内容を振り返ることができる教材としても活用したり、学生がプレゼンテーションを行う際(グループワークの発表や資料の提示など)に活用している。

 学生の問題解決能力の育成を支援する学習材の開発を検討中である。

(2)適正な基準による厳正な成績評価が行われているか。

成績評価は原則として学則に準じている。学生を一つの側面からだけでなく、多面的に評価するために、課題レポート、実技試験、筆記試験、グループワークの自己評価・他者評価、プレゼンテーションなどさまざまな方法を取り入れ、評価基準(予め学生に提示している)に基づき厳正な成績評価を行っている。また、定期試験に加えて、授業中の態度や参加度を考慮に入れている。試験終了後には、試験内容についての解説や面接、紙面上での回答を心がけている。これは学生が評価内容を確認でき、自己課題が明確になる場としても機能している。

成績評価に関して、担当教員が協同で行ったり、学生の自己評価と教員評価の相互評価などより客観的で公正に評価できるようにしている。複数の教員が分担して教育評価をする場合、具体的な評価基準を設けると共に、評価結果を検討する場を設けている。また評価結果は、学生のプライバシー保持に留意し、速やかに学生に報告している。

実習評価は,教育計画に基づく資料の収集,分析,解釈,活用など事前における診断的評価,実習過程における形成的評価,最終的に実習目標に到達できたかどうか事後における総括的評価を実施している。評価のねらいは自己評価能力を高めるための教育的な機会とすることである。そのため、実習評価シートの活用(各領域ごとに作成)し、実習目的達成状況、課題レポートを通じての実習体験を通した課題レポート、実習態度、実習への参加状況の自己評価表シートを用いて、根拠を明らかにしながら評価基準をもとに評価を行っている。

 また実習終了後各施設の指導者とともに指導の達成状況や悩んだ指導場面などについて話し合いを持ち、学生の実習達成状況を確認する資源として活用したり、実習指導場面における指導方法の検討や課題を共有する機会としている。