東京女子医科大学医学部医学教育学教授  神津 忠彦

長崎大学医学部長            齋藤  寛

久留米大学医学部看護学科長       河合千恵子

 本日は外部評価委員として大分医科大学の教育の概要についてご説明を受け、またテュートリアル室を見学させていただきながら学生諸君の意見を聞く機会も得ました。ありがとうございました。本日の視察を踏まえて、先ほど別室で教育担当評価委員3人が話合いをいたしました。これから教育に関する外部評価のまとめを申し上げさせて頂きます。

 我国では現在どの医学部・医科大学も大きな変革の時を迎えておりますが、大分医科大学におかれましても、ご関係の方々がそれぞれのお立場で努力をなさりながら、大きな成果をあげておられるご様子を拝見いたしました。心から敬服いたした次第です。

 この度の視察を通して、大分医科大学では医学科・看護学科ともに抜本的なカリキュラム改革が進行中であると理解いたしました。全体的な構想を拝見いたしますと、体系的イントロダクトリーコースの設定、統合カリキュラムの採用、PBLテュートリアルの導入、MD/PhDコースの設定、学内LANの整備、医学教育専門科目の単位制導入、更には学生による評価を含めた教員業績評価と助手の任期制の導入など、教育改革の具体例は枚挙に暇がありません。

しかしながらこれらの新しい教育改革も、導入開始後2年を経たばかりであり、臨床前統合教育、MD/PhDコース、クリニカルクラークシップなど、未だ計画段階に留まっているものも少なからず含まれております。未施行の内容に関する評価はここでは控えさせて頂きますが、今後の順調な実施を期待申し上げたいと思います。

 大分医科大学の更なる向上・発展を願って、私ども外部評価委員から提言を二、三申し上げたいと存じます。その第一は、コアカリキュラムを本当に意義あるものとするために、カリキュラムを運営する上での教育インフラストラクチャーをさらに整備する必要があるという点であります。大分医科大学では、カリキュラムを運営するためには学務委員会があり、新カリキュラムに対してもカリキュラム委員会が組織されていることは先般承っておりますが、これらの委員会組織の中に、さらに学年単位あるいはコース単位で専念する下部組織を作り、責任者を設定して事務系も含めた機能分化を行いながら、細やかな対応をすることが望まれます。

 全体的な見直しを行う組織を作ることも提言申し上げたいと思います。新しいカリキュラムはいったん導入しても絶えず見直しが必要になります。カリキュラム内容の重複や欠落を発見し改善するために、統合調整委員会を組織し全体を見直すという作業も併せて開始することが大切だと思います。

 カリキュラムの見直しをするためには、教育要項を改善し本当に実質的で役立つものとすることが肝要であります。教育要項が整備されていれば、統合カリキュラム全体がどのように運営されているかを動的に捉えることができます。ところが新カリキュラム教育要項の時間割表を拝見致しますと、惜しいことに、単に「生命科学T・U・V」、あるいは「理化学T・U」というように区分が示されているだけで、具体的な授業内容がシラバスの形で提示されておりません。もし生命科学の何が扱われているかが具体的に示されていますと、学生はもちろんのこと、統合カリキュラムの中で実際に授業をなさる先生方も全体像が理解でき、しかも何が重複し、何が欠落しているかをすぐに把握することができます。時間割表をさらに一層充実・改善されることをお勧めしたいと思います。

 この他に、統合的な教育内容を科目(コース)別に系別リストとしてまとめて教育要項に提示し、そこに日時、担当教室、担当教員も示しておきますと、これもまた重複・欠落をチェックする上で好適な資料となります。そしてできることならば講義担当者の全員が各時限の授業内容のまとめやプリント資料を科目(コース)責任者のもとへ提出し、それが一箇所にファイルされていますと、これも統合科目授業における重複・欠落のチェックに役立ちます。

 PBLテュートリアルについても少し触れさせて頂きます。テュートリアルを統合カリキュラムの中へ有機的に組み合わせる形で導入なさったこと、また専用の教室を整備されたことにまず敬意を表したいと思います。PBLテュートリアルは、日本の医学部・医科大学ではとかく単独で部分的に導入する形になりがちでありますが、限られた時期とはいえ、統合カリキュラムの中にきちんと組み込むという大分医科大学方式テュートリアルの方向性は、ひとつのあるべき姿、良いモデルになりうるのではないかと思います。

 ただし、実際に学生達と話し合ってみますと、学生の側にテュートリアル学習に対するかなりな戸惑いがあるようであります。学生達は、自分がPBLテュートリアルにおいて何をどのように学び、具体的に何をなすべきかという事を必ずしもきちんと理解できないままに、手探りをしながら学習をしているように感じました。この状況は全国的にもしばしば見られることでありますが、これに対応するためには、PBLテュートリアルに関する「学び方」の授業を別枠で体系的に行う必要があると思います。医学教育担当副学長あるいはテュートリアル委員会にこの機能を求めることも考えられます。

 テュートリアルの事例作成や到達目標の設定という、重要な教育機能を果す組織も編成すると良いと思います。各事例の到達目標をカリキュラム全体の中で整合性を持たせて位置づけるための事例作成委員会、あるいはテュータの教育能力を育成するための委員会も必要となるはずです。このような教育上のインフラ整備を今後はぜひお考え頂きたいと存じます。

 教育業績委員会を組織し、学生による教育内容評価・教員評価を実施し、教育業績評価基準を整備してそれを研究費配分にまで反映させるというご英断には感銘を受けました。さすが大分医科大学だと思います。

 改めて申すまでもないことでありますが、教育改革の原点は学ぶ者がどのように改善・向上するかという点にあります。この1年間で大分医科大学の医師国家試験の合格率が劇的な改善をみたというお話を伺いました。教育担当副学長を中心とした大分医科大学の全学的な取り組みが、実りある成果を少しずつ生みつつある証しの一つではないかと感じました。

 簡単ながら以上を持ちまして講評とさせて頂きます。ありがとうございました。

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