琉球大学医学部内科学第1教授 齊藤 厚
大講座制に移行されることは、時代の流れですが、大講座の中で各々の専門分野に分かれると一つの研究分野に人を薄く配置するしかないということになり、研究者の層が薄くなる欠点が気になります。そのあたりを今後どのように考えておられますでしょうか。研究目標としてあげられている(1)から(9)までの分野で医学の全研究が包含されるとは思えません。現在の講座で研究されていることを集約すると(1)から(9)になるとは思いますが、その中に含まれていない分野もあると思います。この点は今後どのように考えておられるのでしょうか。
研究体制についての学長裁量の件ですが、これは非常に高く評価したいと思います。評価表は九州大学が作っておられて琉球大学でもそれを参考にして策定しております。ここでは、学長裁量という思い切った配分がされているわけですけども、一つが500万程度になっています。もう一つは学長裁量の臨床研究の実験に毎年5000万円計上されています。この金額の妥当性や配分方法あるいは研究成果の公表など、決められているのでしょうか。これが少し気になります。
看護学科教官が附属病院臨床研究審査委員会に入っておられますが、看護学科教官も当然この研究費の取得に応募できなければいけませんね。できる形になっているのでしょうか。これは、大変新しい試みであり、高く評価したいと思います。
人的体制で、リサーチアシスタント制度というのがありますが、大学院の学生を対象にしていることには高尚な目的があるわけです。従って、その選考基準、評価基準ということをはっきりさせるべきではないかと思いました。
教室系の技術職員で技術部を設置して研修会を実施されていますが、大学院の一年生に大変グレードの高い講義を受けさせることは、非常に良い試みだと思います。
任期制をすべての助手に導入されたということ、これも評価したいと思います。後の評価方法を詳しく検討していかねばならないと思いますが、助手が医学部所属から附属病院所属になると、また任期をカウントし直すなどという姑息的手段は控えるべきでしょう。
今後は、講師、助教授、教授も徐々に移行していくのが良いのではないかと思います。
共同研究施設が、たくさんありまして非常にすばらしい。動物実験施設、RI実験施設、情報処理センターなどの共同利用施設が充実しており、羨ましい限りです。実験実習機器センターもよく機能していて、施設見学で見せて頂きましたが、学内LANを使っての医用画像情報提供などは高く評価したいと思います。研究ばかりでなく、教育にも利用されていて、機器もなかなか高価なものが揃っており、これらがきちんとメンテナンスされています。専門知識を有する女性の方が専属で一人付かれていて、機器の整備がされている体制に感心しました。共同機器というのはみんなが使うので壊れてしまうのが実状ですが、これはたいへんすばらしいと思いました。
図書館も24時間外部の方に開放されていて、そのシステムも充実していて感心しました。
学外の研究機関に対する支援は、ドミニカ共和国サント・ドミンゴ自治大学、アイバール病院、河北医科大学、中国人民解放軍軍医進修学院があり、学術交流が積極的になされており大変すばらしいと思いました。アジア・カリブ教育研究センターが発足したのも当然だと思います。
留学生は現在9名受け入れており、9割〜8割は学位を習得されています。ほとんどが私費留学ですので、こちらに経済的に支援するシステムがあるのでしょうか。こちらから学生や研究者を派遣することは、なかなか難しく様々なトラブルに気をつけないといけないわけですが、今までの学術交流に関する歴史の重みが感じられ、素晴らしいと思いました。
さて、各講座の研究活動が一番の評価項目ですが、講座単位の自己点検・評価は、4年間の業績がインパクトファクターと代表論文10編にしぼられていたために教室の活動が分り辛い気がしました。もう少し教授の研究、教室の研究、外部発表をどれくらいしたか、その教室が大学院生を何名とって学位を何名に取らせたか、そして論文博士がいくつだったかが、その講座の評価となるわけです。次の時代を担う助教授、講師などの若手教官のことですが、論文数が教官数285名に対して230編位でしたので、年間あたり1人1編に達していません。
全体ではやはり基礎講座、臨床講座もですが、学術論文の数がやや少ないのではないでしょうか。年間10編ないところがあります。各講座に欠員があったり、教授1、研究補助員1という講座もあるようですが、論文を二年間一編も書いてないケースもありました。こういうことは教授会や大学院の医学研究科等で、ある程度誰かが話題にしなければならないと思いました。それが難しければ研究評価委員会などを設置して、調査内容を公表する方法を取らなければいけないのではないかと思いました。インパクトファクター値が高くても外国留学中での論文がいくつかありました。それが帰国後の研究に反映されるので良いことだと思いますが、外国での研究は教室のインパクトファクターに計算してはいけないと思います。それを除外してみると、良いように書かれている講座でもちょっと評価が変わってくる。各講座の中で1名、2名が非常に頑張っておられて素晴らしいことですが、その人たちが目立つくらい他の人達が低調なところもあります。教官の任期制を採用するなら一人一人の評価をするべきではないでしょうか。インパクトファクターはそれ程高くなくて、論文もそんなに多くないのに、科研費やその他の研究費を受けられて活躍されている教室もある。こういうところはそれなりの評価をしてあげなければいけないと思います。
大学院を4年で卒業する学生が37.0%から46.7%というのは、研究の質が高いからといわれても、やはりこれは低いのではないかと思います。目標を設定して、目指す方策、努力をしないといけないと思いました。それから、大学院が定員を満たしていない問題ですが、臨床から基礎に行かれる人と、外国人留学生が多いということで、大分医科大学出身者と海外出身者が半分半分ということですが、基礎にいくために基礎配属とか色々と努力をされておりますので、今後少し良くなるのではと期待されます。全体における大学院の研究発表は必要に思いますが、セミナーの開催とかテーマを絞ったセミナーとか学内で学術講演会等を開催するのも良いと思います。
文部科学省在外研究員は、10年度〜12年度まで各3名となっています。研究助成等の募集情報を若い人達に積極的に流し研究意欲を活性化するということが必要と感じました。それから基礎系講座には人が集まらないとか、マンパワーが不足とか記載されていますが、それに対する方策を本気で努力しているのか、今後、意識してやっていかなければいけないと思いました。
教授が論文を書かないと下は書かないというのが常識ですので、インパクトファクターに関係なく、英文で論文を書く指導をした方がいいと思います。それから、講座は大学院生を積極的に受け入れて、学位取得や論文博士取得を積極的に行う必要があります。看護学科は、ある講座だけが非常にインパクト指数が高くて、群を抜いているところがあり、それ相応の評価を受けるべきと思います。
医学科と看護学科の関係ですが、医学科と看護学科では研究に対する歴史が違いますし、ここに書かれていることは良く理解できますが、それを評価するということは大変困難ですので、慎重に行う必要があります。カリキュラムをできるなら一緒にするということは、修士課程はできているので、今後は博士課程の開設を目指す努力されてはいかがかと思いました。ただし、看護系大学が全国的に設置されて教官の確保が非常に難しい問題があると思いますが。
以上、大変失礼とは存じましたが、素直な意見を述べさせて頂きました。大分医科大学の益々の御発展を祈念いたします。ありがとうございました。
九州大学大学院医学研究院長 桑野 信彦
大分医科大学が新たに提示されている9つの研究目標の間に総合的な連携が少ないと思います。8つの大講座を組織しても本当にそれで研究の山は見えてくるのでしょうか。大分医科大学が日本や世界に特徴ある医学と医療をアピールしていく上での提言がほしいと思います。どんな特徴ある大分医科大学医学の基盤をつくるか、ディスカッションして然るべきです。例えば、吉岡先生がやっておられるような研究を大分医科大学の一つの核にしていくとかいった研究組織の編成に対する議論が湧き上がるべきだと思います。教授だけでなく全職員の意見を反映しながらやっていくのが大切ではないでしょうか。特にこれからの担い手である若いパワーをどうやって引き出すかということが重要だと思いますし、われわれは彼らを伸ばすために真剣に取り組む必要があると思います。
教育、研究、診療と三位一体といっておりましたが、現実にはこれほど医学が多様化し、教授一人で三位一体をこなすことには無理な所が沢山出てきています。臨床系医学の場合、診療領域と研究領域は別組織にしていく必要があるのではないでしょうか。研究体制と診療体制を別々につくって、必要に応じてリエゾンするという形にし、機能分担をある程度やっていかなければ無理だと思います。また、アジア・カリブ教育研究センターや創薬オフィスを大分医科大学の顔にするためにはどうしたらいいかご討議いただきたいと思います。研究の山を何にするかを全学的に議論して、学長裁量なり、全学的にバックアップする体制が必要と思います。やるべき研究の柱をはっきりすれば少ない人的資源を有効活用することもできますし、特徴のある萌芽的研究ができると思います。基礎系医学の研究者を大切にしながら臨床医学と連携して新しい大分医科大学の研究が出てくることによって、大学の特徴が出てくるのではないでしょうか。是非、そういうことを踏まえてお考えになっていただき、将来計画の中に盛り込むことがよいと思います。
それから、実験実習機器センターでは各々の技官の方が頑張って管理され、みごとなものです。しかし、ここでどれだけの研究者が利用されているのかどうかがはっきりしませんでした。大分医科大学の若手諸君は立派な才能をもっておられますが、是非先生方がこの若い世代と一緒になって大分医科大学の医学の発信をしていただきたいと思います。一方、保健学科の場合、社会貢献や地域貢献の中から研究や教育の評価をきちんと見極めていないと、論文のインパクトファクターだけではとても具体的な評価ができない気がします。
また、ドミニカのプロジェクトを随分と長期間にわたって続けられていることは素晴らしいと思いますが、その成果がどこにも記載されていない。どういうことをやったり、どういう人材を育成したかなど、具体的にしていただきたいと思います。
現在のように教養教育が重要視されている時こそ、一般教養からの医学教育のあり方についての提示がもっとあって良いと思います。入ってきた学生をどう教育していくのかという学生にとって一番最初の重要な時期の教育についての具体的な取り組みを述べていただきたいと思います。
最後に、4年生の大学院生の卒業率(学位取得率?)が40%というのは低いと思います。将来を担う大学院生の教育がきちんとしていないということなのでしょうか。大学院生の本来の研究に全力投球できる環境づくりをお願い致したいと思います。それから助手のみに任期制を課していますが、教授や助教授も当然含めるべきではないかという気がします。
3.研究