初期、風邪と区別つかず…新型肺炎、現場で混乱

新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)の診断をめぐって、医療や検疫の
現場で混乱が続いている。初期の症状は普通の風邪と区別がつかず、感染を判断
する確実な検査法もないからだ。

厚生労働省の担当者も「検査法が確定しない限り、混乱は続く」と、頭を抱えている。

成田空港検疫所に3日、「中国からの航空機にSARSの疑いがある会社員が
乗っている」と連絡があった。検疫所は、到着した飛行機に医師を派遣。「感染の
恐れはない」と判断したが、乗客は診察が終わるまで機外に出ることを許されなかった。

会社員は中国を出る前、日本の本社に「中国で肺炎になったが、治ったので帰国する」
と連絡。会社側は近くの病院に「診察を受けさせたい」と伝え、連絡を受けた病院側が
検疫所に通報していた。診断が分かれたケースもある。台湾当局は10日、成田経由の
台北―ホノルル線に搭乗した客室乗務員について、SARS感染の疑いがあると発表、
乗務員を「自宅隔離」にした。

成田を経由していることから、厚労省があわてて調べたところ、乗務員は成田空港内の
診療所で診察を受け、SARSではないと診断されていた。

台湾当局は翌11日、厚労省に「SARSとは違う肺炎の疑いが強い」と伝えてきた。
同省は「日本の診断に間違いはなかった」と安堵したが、ぎくりとさせられた台湾の発表だった。

SARSの病原体は、風邪の症状を引き起こす「コロナウイルス」の新種と見られている。
血液検査でウイルスの抗体(体内免疫物質)などを見つける方法が分かれば、簡単に
感染の有無が診断できるが、確立した診断法はまだない。

成田空港検疫所には、連日、相談の電話が100本以上かかってくる。多くがSARSの
流行地から帰国した人たちで、「どこで検査を受けられるのか」という内容ばかりだという。

厚労省の幹部は「今後も混乱が続くと見られるので、1日も早く検査法を確立しなければ
ならないが、見通しが立たない」と、いらだちの表情だ。

(2003/4/12/16:34 読売新聞WEB版)