GWを新型肺炎直撃、業界は不安ウイーク

新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)が、26日から
始まったゴールデンウイークを直撃している。書き入れ時なの
に、イラク戦争とのダブルパンチに見舞われた旅行、航空業界
への打撃は深刻。海外からの観光客を迎える東京都内などのホ
テルでも、キャンセルが続出している。中国に進出している日
本企業も、感染防止などの対応に追われており、関係者は影響
の広がりに不安を募らせている。

――成田は出国ピーク…とはいえ去年の3割減――

成田空港では26日、ゴールデンウイークを海外で過ごす人の
出国がピークを迎えたが、この日の出発客は昨年のピーク時に
比べ1万人以上も少ない約3万1600人(新東京国際空港公
団推計)にとどまった。ゴールデンウイーク期間を通じた出発
客も昨年比で約3割減る見込みだ。

この日、搭乗ロビーは搭乗手続きの列も少なく、閑散とした雰
囲気。香港行きの全日空909便の搭乗待合所にも、日本人観
光客の姿はほとんどなかった。

香港経由で中国・深センに向かうという建設会社事務所長の篠
原豊さん(57)は「仕事なので仕方ない」とあきらめ顔。香
港行きを取りやめ、家族3人でグアムに観光旅行に出かけると
いう埼玉県川口市、主婦桐島里恵子さん(34)は、「感染が
怖いので、旅行会社の勧めで安全な地域に変更しました」と話
していた。

グアム便に乗り込んだ東京都中野区の会社員男性(35)は
「グアムでは流行していないので大丈夫」と話したが、口と鼻
を覆うマスクはしっかり着用。「空港の方が、感染する可能性
がありそうで、むしろ怖い」と話していた。

――ツアー中止続々――

「過去最悪のゴールデンウイークになるかも」。イラク戦争と
SARSのダブルパンチを受けた国内の旅行会社は、ダイレク
トメールや電話で必死の営業作戦を続けている。

JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行の大手各社は今月3日、
香港と中国広東省へのツアーの一時中止を決定。中止路線は、
その後、世界保健機関(WHO)の渡航自粛勧告が出た地域が
増えるにつれ、北京や山西省、カナダ・トロント向けにも拡大した。

今年のゴールデンウイークは、連休が3日しかなく、イラク戦
争の影響も心配されていただけに、旅行各社の期待は戦争の影
響が比較的薄く、短い日程で旅行できるアジアに集まっていた。

米国への大リーグ観戦ツアーや、東北新幹線「はやて」が開通
した北東北などの国内旅行は好調だが、ある旅行会社は「中国
政府の対応に遅れがなかったら……」と悔しさを隠しきれない
様子。「利益は例年の半分。過去最悪のゴールデンウイークに
なりそう」と厳しい見方も出ている。

――減便相次ぐ国際線――

利用客が激減し国際線の減便や運休が相次ぐ航空業界も深刻。

香港便で減便を余儀なくされている全日空は、「昨年の成田空
港の暫定滑走路供用開始でアジア路線に期待していただけに、
今回の香港便の減便は痛い」(広報室)と話す。

海外便の多い日本航空システムでは、アジア路線に加え、欧米
路線でも減便や運休が続出。同時テロ以降、前年比6割程度に
落ち込んでいた乗客数も今年3月、ようやく9割程度まで回復
していただけに事態を深刻に受け止めている。

――北京の生産施設一時停止――

一方、中国を生産拠点とする電機メーカーも対応に必死。

すでに中国広東省、香港の駐在員向けにうがい薬1500本、
マスク300個を送った三洋電機はゴールデンウイーク中も情
報収集を続けるという。「場合によっては食料も送らなければ
ならない。30か所の工場の従業員に感染者が出たら、工場を
閉鎖して消毒することも想定しなければ」と、広報担当者は危
機感を募らせている。

中国国内に40か所以上のグループ工場を抱える松下電器産業
は、北京市などの駐在員家族約200人を帰国させ、今月21
日には市内のグループ会社生産施設の稼働を1日停止した。広
報担当者は「感染者が出たら、施設の一時閉鎖もやむを得ない
かも」と話している。

東京ディズニーランド近くの「ディズニーアンバサダーホテル」
(千葉県浦安市)には、欧米から「日本は大丈夫か」という問
い合わせが寄せられている。

(2003/4/26/12:50 読売新聞WEB版)