新型肺炎、強制措置拡大で歯止め強化

厚生労働省の審議会が2日、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=S
ARS)を巡り、入院勧告などの強制措置を拡大することを決めた
ことで、日本は、感染者が出た際の歯止めを強化することになった。
SARSが流行する中国本土や香港からの帰国者が急増する中、仕
事の都合などで入院を拒否する人が相次ぐ恐れも指摘され、国の感
染症行政が、従来の人権最優先から拡大防止重視へと転換する。

SARS患者の判定は大きく3段階。流行地から帰国後10日以内
に発熱やせきなどの症状が出た場合が「疑い例」。このうち肺炎の
症状があった場合が「可能性例」だ。国は任意の措置として、「疑
い例」には外出自粛を、「可能性例」には入院を求めていた。

「可能性例」の中で、抗生物質による肺炎治療を3日間行っても病
状が改善せず、他の原因となる病気も判明しなかった場合、感染の
疑いが極めて濃厚な患者となる。都道府県は感染症法が定める「新
感染症」の患者として、厚労省に正式に報告。厚労省の審議会で
「確定患者」と認定されれば、同法に基づき、入院勧告などの強制
措置が実施できることになっていた。

国内ではこれまで疑い例43人、可能性例16人が報告されている。
しかし、感染の疑いが濃厚として国に正式に報告された事例はない。
ただ、可能性例の中には、入院要請を断り、自宅に帰宅してしまっ
たケースなどがあった。

SARSは感染の有無を診断する検査法がまだ開発されておらず、
確実に患者を見分けることができないため、アジア各国では、可能
性例の段階で患者の隔離を進めるなど強硬措置を実施している。こ
れに対して日本は、エイズやハンセン病患者への差別の反省に立って、
新しい感染症対策の柱として1999年に感染症法が施行された経緯が
あり、患者の人権への配慮から、SARS対策も慎重に行われていた。

(2003/5/2/13:55 読売新聞WEB版)