ホテルや飲食店、新型肺炎医師の全訪問施設を公表

新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)に感染していた
台湾人医師(26)が日本を観光旅行していた問題で、厚生労
働省は18日、医師が訪れたホテルや飲食店などすべての施設
名を公表した。

「接触者調査を早く進めたい」との理由からで、一部の施設、
交通機関については、当時の利用者に保健所などへの連絡を求
めている。ホテル側は「打撃は大きいが、仕方ない」と苦渋の
表情を見せている。

同省はこれまで、医師が利用した公共交通機関などは便名など
も公表し、利用者に注意を喚起してきたが、ホテルなどは公表
の対象外としてきた。しかし、大阪市の「都ホテル大阪」など
では連絡が取れない宿泊者もおり、「早期調査のため、公表も
致し方ないと判断した」という。

同日夕に公表された医師の「行程表」には、相手側の了解を得
た上で、施設名のほか、医師が利用した客室番号、利用日時な
ども明記された。さらに、医師が9日夕に発熱後、2メートル
以内の「濃厚接触」があった可能性のある施設や交通機関を抜
き出し、医師と同じ時間帯に利用し、まだ調査を受けていない
人は、関係府県や近くの保健所などに申し出てほしいと呼び掛
けた。

厚労省は、医師が発熱する前は、他人に感染させる恐れはなか
ったとして、9日夕以前の施設については接触者調査の対象か
ら外した。「行程表」は同省のホームページ(http://
www.mhlw.go.jp/)で公開されている。

一方、これまでの調査で、医師と同じホテルに宿泊した男性2
人が、38度以上の発熱があったことが判明した。いずれも1
8日までに平熱になり、階も異なるため、「疑い例」にも当た
らないという。

◆休業、相次ぐキャンセル…宿泊ホテル苦渋◆

医師が宿泊した「都ホテル大阪」(大阪市天王寺区)は18日、
役員らが記者会見して2次感染の予防策などを説明、安全性を
強調した。独自の判断で17日から感染者が宿泊したことを告
知しているが、伊藤正弘総支配人らは「感染予防策を取ってお
り、お客様に安心して使ってもらえるホテルだと理解してもら
えるはず。海外客へのセールスを積極的にしてきただけに残念」
と苦渋をにじませた。

すでに予約客424人と宴会22件がキャンセルになるなど、
計約2000万円の損害が出た。当分、台湾や中国などからの
海外客にはホテルの宿泊を受け付けないという。

17日から営業自粛している京都府宮津市の「天橋立宮津ロイ
ヤルホテル」の中定和敏支配人は「当然のこと。保健所などと
連絡を密にし、事態を良い方向に収拾したい。営業再開後のこ
とまで考える余裕がない」と話した。

香川県・小豆島の「小豆島グランドホテル水明」の社長は「朝、
県から相談を受けて承諾した。島内の他のホテルや施設に迷惑
がかかると思い、仕方がなかった。影響は1か月は続き、10
00万円以上の減収になる。国や県はどこまで支援してくれる
のだろうか」と怒りを隠さなかった。

(2003/5/19/01:00 読売新聞WEB版)