新型肺炎直撃の旅行業界、国内・欧州の重点化で対応

新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)が旅行業界に
与える打撃が深刻化している。アジア方面への旅客は激減し、
とくに中国旅行を専門に取り扱う中小業者への影響は大きい。
各社はテーマを決めた国内旅行の提案や、欧州に特化した店
舗の開設などあの手この手の対応に躍起だ。

中国旅行が専門のある業者(東京・千代田区)は4月の収入
が前年同期の3分の1にまで落ち込んだ。中でも、主力とし
てきた北京行きにはキャンセルが相次いだという。SARS
の感染が広がる前は飛行機の座席が取れないほどの盛況だっ
ただけに落差は激しく、この業者は「しばらくは日本にいる
華僑が中国の親族に会いに行く予約を地道に取っていくしか
ない」と困惑しきりだ。

影響は大手にも拡大している。各社はすでに香港、北京への
主催旅行を見合わせ、台湾旅行も中止。JTBの中国方面の
利用者数は4月が前年同期比75%減で、5、6月は同90
%減を見込んでいる。
年間で最大の書き入れ時となる夏休みの旅行は、既に申し込
みが本格化している。JTBは中国旅行の減少分を穴埋めし
ようと、国内旅行の売り込みに力を入れている。中でも、和
歌山県の熊野古道をガイドと歩きながら自然に触れるといっ
た「体験型」の旅行を前面に押し出しており、「価格を下げ
ただけでは申し込みは増えないが、テーマを決めた提案型の
商品なら国内でも10万円を超える旅行を利用してくれる」
(JTB)と期待をかける。

近畿日本ツーリストが着目したのは、需要が安定している欧
州旅行だ。販売をてこ入れするため、4月に東京・有楽町支
店を改装して「欧羅巴(ヨーロッパ)旅行館」を開設した。
ベルギーなど各国の政府観光局と提携し、欧州に特化した商
品展開で需要減の食い止めを狙う。

しかし、過去には「病気が原因で旅行市場が低迷した例はな
い」(帝国データバンク)だけに、旅行各社は影響の広がり
を読み切れていない。

(2003/05/21/23:26 読売新聞WEB版)