北京も新型肺炎“克服"、胡政権やっと面目

読売新聞WEB版
2003/6/24/23:04

 【北京=佐伯聡士】世界で最も多くの新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)感染者を出した北京に対する世界保健機関(WHO)の渡航延期勧告と「感染地域」指定が、24日解除されたことで、中国の胡錦濤政権は、国際社会の信頼回復を図りながらSARS制圧を達成しなければならないという試練を乗り切った。

 しかしSARSは、政権の存立基盤さえ脅かしかねない潜在的危機である雇用問題を直撃している。胡政権が今、直面するのは、経済への“後遺症”という新たな難局だ。

 中国外務省の孔泉報道局長は同日の定例記者会見で、「中国はWHOを通じて国際社会とともに、我々が得た有益な経験を分かち合い、SARSを徹底的に克服したい」と述べ、国際協調に努める姿勢を改めて強調した。感染が拡大した当初、情報公開の遅れや非協力的な取り組みを国際社会から激しく批判され、中国の面目が丸つぶれの局面もあっただけに、「反省」を込めた弁だった。

 4月20日に事実上の「情報隠し」を明らかにしてからの胡政権の動きに対する内外の評価は高い。胡総書記は、医療機関や農村などをマスクもつけずに精力的に視察。温家宝首相も、重大な伝染病や集団食中毒への対処を定めた条例を施行したほか、サービス業への減税措置を講じるなど、矢継ぎ早に民衆重視の政策を実施した。断固たる隔離措置を実行し、懸念された農村への感染拡大を抑え込むことにも成功した。

 こうした対応は、「国家指導者の送迎式典廃止など、就任以来の一貫した謙虚な政治スタイルが共産党内外の幅広い層で支持を得ている」(中国筋)こととも重なって、江沢民・中央軍事委員会主席の“院政”下にある胡総書記の指導権が徐々に確立されつつあることを印象づけた。

 胡政権にとって、今後の最大の懸念は雇用不安だ。失業者や農村の出稼ぎ労働者の都市部での受け皿となっている観光、飲食、運輸、建設などの産業は、SARSのために次々に営業停止に追い込まれ、大きな打撃を受けた。中国誌「新聞週刊」は専門家の分析として、SARSは通年で0・5―2ポイント経済成長率を低下させ、今年見込んでいた新規雇用800万人のうち130万―530万人が減少すると伝えた。

 政治と社会の安定確保を最優先課題とする胡政権にとって、「経済発展は政権維持の生命線」(同筋)であり、雇用不安はその根幹を揺るがす恐れがある。打撃を受けた産業の回復が遅れ、雇用不安が深刻化して社会の安定を脅かすことになれば、指導者の責任論が浮上しかねない。胡政権にとってSARS戦争は完全に終わったわけではない。

(2003/6/24/23:04 読売新聞)


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