SARS感染は対策研究中に器具に触れ 台湾の軍中佐

毎日新聞WEB版
2003/12/17

【台北・飯田和郎】台湾で17日、今冬初めて新型肺炎「重症急性呼吸器症候群」(SARS)感染が確認された男性医療研究者(44)は、国防医学院予防医学研究所(台北県)でSARS対策の先端をいく軍中佐だった。5月には、観光旅行で西日本を訪れた台湾人男性医師がSARSに感染していたことが判明し、医師の立ち寄り先で大きな騒ぎになった。高度な知識を持つ医療従事者のモラルが改めて問われそうだ。

 研究者の勤務する研究所は国防部(国防省)直轄機関。衛生署(衛生省)の説明によると、研究者は5日、この研究室内でSARSウイルスの実験を行った際、誤って素手で器具に触れていた。陳建仁署長は「この時に感染した可能性が極めて高い」とみている。

 研究者は薬物などの中からSARSウイルスに効果のある物質を探し出す実験の責任者を務め、SARS研究の第一線にあったという。

 また、同研究所は生物化学分野では台湾随一の実験施設を有し、最高水準の安全対策を備えているとされる。5月に視察した陳水扁総統もその役割の重要性を強調し「一流の人材による研究成果を期待する」と激励していた。

 17日の段階では、研究者から他に感染が拡大した様子は確認されていない。だが、衛生署疾病管理局の蘇益仁局長は「個人的な行為とはいえ、あまりにお粗末」とあきれた様子を隠さない。

 研究者は感染したとみられる翌々日の7日にシンガポールへ渡航しており、感染を海外に広げる危険性もあった。シンガポールですでに体にだるさを覚えていたが、本人はインフルエンザとの認識だったという。

 台湾当局はSARS再流行が懸念される本格的な冬の到来を控え、住民への注意喚起を促していた。その矢先の医療関係者の不注意だけに、日本に旅行した医師の教訓が半年経過しても生かされなかったと指摘する声もある。

(毎日新聞)

[2003年12月17日22時50分更新]


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