日常診療に役立つ医学情報
20200405版 文責:千葉政一
新型コロナ関連
I)新型コロナウイルスの正式名称
i)SARS-CoV-2:Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2
ii)新型コロナウイルス感染症の略語:COVID−19:Coronavirus disease 2019 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/newpage_00032.html
iii)少なくとも2種類のウイルス型があり、L型が重症化しS型が軽症で治癒する。
https://academic.oup.com/nsr/advance-article/doi/10.1093/nsr/nwaa036/5775463?searchresult=1
II)新型コロナウイルス感染症の疫学
i)全世界人口の約6割程度が感染する可能性
「今後1年で全世界人口の40~70%が感染してもおかしくない」ハーバード大学のMarc Lipsitch疫学教授の私見。
https://www.gizmodo.jp/2020/02/coronavirus-screening-aboard.html
https://www.theatlantic.com/health/archive/2020/02/covid-vaccine/607000/
ii)「ドイツの人口の60%から70%が感染する可能性」
ドイツのメルケル首相の3月11日の会見。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200312/k10012326741000.html
iii)感染拡大はかなり速く進む。
CoVID-19症例468人中59人(12.6%)は無症状症例から感染した。COVID-19の伝染する速度(serial interval)は平均4日だった。中国からの報告。
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/6/20-0357_article
III)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状
i)無症状での治癒は感染者の約18%
客船ダイアモンドプリンセス乗船者の3063人中634人(20.7%)のPCR検査陽性症例のうち、無症状は634人中320人(50.5%)、有症状は634人中314人(49.5%)だった。この無症状320人の約17.9%が無症状まま治癒し、逆に無症状症例の82.1%は発症することが統計モデル(a Bayesian framework using Hamiltonian Monte Carlo (HMC) algorithm)で示唆された。日本人による症例解析。
https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2020.25.10.2000180
ii)死亡率は、乗船対象者の0.3%、全感染者の1.6%、有症状者の2.9%、集中治療を要した症例の29.7%
客船ダイアモンドプリンセス乗船者の3711人中712人(19.2%)のPCR検査陽性症例のうち、無症状は712人中331人(46.5%)、有症状は712人中381人(53.5%)だった。有症状者381人中37人(9.7%;全感染者712人の5.2%;乗船対象者3711人の1%)が集中治療を受け、有症状者381人中9人(2.4%)が死亡した(厚労省20200401時点では死亡者11名、2.9%;乗船対象者3711人の0.3%)。米国による症例解析。
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6912e3.htm
iii)初期症状
必ずしも高熱を伴わない下痢・吐き気などの消化器症状、頭痛、その他に動機や胸部圧迫感の胸部症状がみられた。呼吸器症状は進行した症状として認められた。武漢大学附属病院の報告。
http://www.xinhuanet.com/politics/2020-01/24/c_1125500055.htm
https://jp.sputniknews.com/asia/202001267051246/?amp_js_v=0.1&usqp=mq331AQCKAE=
iv)感覚器症状 約半数の症例が嗅覚障害や味覚障害を伴う
比較的軽症のCOVID-19の9症例中4症例が嗅覚・味覚障害を訴えた。ドイツからNatureへの報告。
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2196-x
v)消化器症状 入院治療を要した症例の約半数が消化器症状を訴えた
入院を要した症例のうち、41%が呼吸器症状のみ、47%が消化器症状と呼吸器症状の合併、消化器症状のみが3%、無症状は9%だった。中国湖北省のCOVID-19入院治療患者204人の調査より。
https://journals.lww.com/ajg/Documents/COVID_Digestive_Symptoms_AJG_Preproof.pdf
vi)皮膚症状
高体温と皮膚症状のみで発症したため初期診断はデング熱と誤診された。シンガポールからLancetへの報告。
https://www.thelancet.com/pdfs/journals/laninf/PIIS1473-3099(20)30158-4.pdf
https://jp.sputniknews.com/science/202003107254046/
*デング熱の発疹:点状発赤が胸部・体幹から始まる発疹が出現し、四肢・顔面へ広がり、顔面潮紅や紅皮症をきたす。はしかの症状に似た皮膚症状が特徴。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/238-dengue-info.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/デング熱
vii)眼症状
38名のCOVID-19症例38人中12人(31.6%)が眼症状を訴えた。眼症状は、結膜充血や結膜浮腫や流涙や”目ヤニ”などの結膜炎が認められた。SARS-CoV-2 RNAの結膜ぬぐい液からの検出率は眼症状12人中2名(16.7%)だった。涙を介し感染する可能性が示唆された。中国からJAMAへの報告。
https://jamanetwork.com/journals/jamaophthalmology/fullarticle/2764083
IV)新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRNA検出動態
i)インフル様症状を訴える症例の5%がSARS-CoV-2陽性
インフルエンザ様症状で急患受診した症例131人中7人(5.3%)がSARS-CoV-2陽性だった。インフルエンザ抗体検査は前例陰性だった。米国ロザンゼルスからJAMAへの報告。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2764137
ii)感染初期は上気道、中期以降は便
比較的軽症のCOVID-19の9症例の調査。感染の初期(0-7日):上気道>血液>尿>便、中期(8-21日):上気道>便>血液=尿、後期(22-28日):上気道>便>>血液>>>尿。上気道の咽頭ぬぐい液でPCR陰性化しても便は持続陽性の可能性が高い。ドイツからNatureへの報告。
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2196-x
iii)発症直後は唾液が最も危険
COVID-19確定した23症例の検討で、発症直後の咽頭後壁の唾液中のSARS-CoV-2量が最大で、経時的に低下した。香港からLancetへの報告。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32213337/
V)新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の防疫
i)マスクのSARS-CoV-2防疫効果は高い
COVID-19陽性だが診断前の症例を担当していた医療従事者41人のうち、85%は通常の手術用マスク、残り15%がN95マスクを着用していたが、その全員がSARS-CoV-2感染を免れた。シンガポールから米国内科学会雑誌への報告。
https://annals.org/aim/fullarticle/2763329/
ii)糞口感染の高リスクから、手に触れる部分の清拭が防疫上重要だ
前室・トイレ付き空気感染隔離室の3症例で、清拭前と後ではテーブル、スイッチ、便器などでSARS-CoV-2検出率が大きく低下した。全空気検体は検査期間中、完全な陰性だった。つまり、空気感染より接触感染のリスクが非常に高いことを示している。シンガポールからJAMAへの報告。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2762692
iii)BCGワクチンのCOVID-19防疫効果は20200405現在は臨床試験中
iii-i)オーストラリアでCOVID-19へのBCGワクチン予防効果は、医療従事者4000人を対象に開始され、すでに300人以上への投与が完了した。BRACE試験として施行。
https://www.biotoday.com/view.cfm?n=90519 https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04327206
iii-ii)世界地図で見たBCGワクチン接種の有無
*COVID-19へのBCGワクチン予防効果が注目される菊花となった論文は査読を受けていない。下記URLにて当論文を確かめると、トップ但し書きに「should not be used to guide clinical practice」とある。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.24.20042937v1
VI)新型コロナ感染症の薬物治療
i)抗インフルエンザウイルス薬:アビガン(一般名ファビピラビル:Favipiravir)
ii)合成副腎皮質ホルモン:メチルプレドニゾロン
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2763184
iii)ステロイド吸入薬:オルベスコ(一般名シクレソニド:Ciclesonide)
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/COVID19_Ciclesonide.pdf
iv)慢性膵炎経口治療薬:フォイパン(一般名カモスタット メシル酸塩:Camostat mesylate)
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)30229-4
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04321096
v)マラリア経口治療薬:ヒドロキシクロロキン: hydroxychloroquine
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.22.20040758v2.full.pdf
*無査読の報告、要注意。
vi)NO持続吸入療法:INOpulseによる一酸化窒素(NO)持続経鼻投与がSARS-CoV-2感染細胞の生存を改善する可能性あり https://academic.oup.com/cid/article/39/10/1531/460542