2. GM-MCMCと「富岳」を用いた大規模計算
効率的なマルコフ連鎖モンテカルロ法の枠組みを開発し、スーパーコンピュータ「富岳」での計算に応用しています。
研究の背景
生体分子の構造がほどけたり、あるトポロジーから別のトポロジーへ移ったりする現象の多くは、まれにしか起こらない「希少事象」です。分子はほとんどの時間を安定した状態で過ごし、ときどき高い自由エネルギー障壁を越えます。通常の分子動力学シミュレーションは原子の実際の運動を一歩ずつ追うため、障壁を一度越えるまでに非常に長い計算が必要になることがあります。マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法は、物理的な運動そのものを追う代わりに、平衡分布に統計的に対応する配置の列を生成し、大きな移動も提案できる方法です。
研究内容
- GM-MCMCの枠組み。岩城貴史博士とともに、連続するサンプルの相関が速やかに減るような提案を行う、マルコフ連鎖モンテカルロ法の枠組みを開発しています。重要な指標は積分自己相関時間τintで、これが小さいほど、同じ計算量で多くの統計的に独立なサンプルを得られます。
- 「富岳」での性能評価。スーパーコンピュータ「富岳」のA64FXプロセッサ上で手法を評価し、G4トポロジー転移の大規模サンプリングに応用しています。多数の独立した連鎖を並列に実行し、まれな転移の統計を集めています。
- ゲノムの空間構造。同じ計算資源を用いて、核内でクロマチンがどのように折りたたまれるかを粗視化モデルで研究しています。
研究の意義
効率的なサンプリングにより、G4の各トポロジーの存在割合や相互転移速度の推定など、直接シミュレーションでは扱いにくい問題を、統計誤差を評価しながら解析することを目指します。この手法は核酸に限らず、広く応用できるものです。
主な関連論文
- GM-MCMC:J. Chem. Inf. Model., 2026. DOI: 10.1021/acs.jcim.6c00196