悪性リンパ腫のはなし

1、悪性リンパ腫とは

私たちの体内には病原体などから体を守るはたらきをもった白血球が流れています。
悪性リンパ腫はこの白血球の中でリンパ球という細胞ががんになったものです。
主にリンパ球はリンパ節、脾臓(ひぞう)、扁桃(へんとう)、血液中、その他全身に存在しています。

2 悪性リンパ腫の分類

悪性リンパ腫は多くの病気に細分類されています。それぞれのリンパ腫の種類により症状、検査結果、治療内容、治療効果、予後(病気がどの程度回復するか の見通し)が異なるため正確に診断し分類する必要があります。
悪性リンパ腫の診断には顕微鏡で拡大して細胞を観察する「病理検査」で診断されます。

顕微鏡で観察したときに、大型で特徴的な形態をした「リード・スタンバーグ細胞」が見られるという特徴のあるものを「ホジキンリンパ腫」、そうでないものを「非ホジキンリンパ腫」として大別します。

非ホジキンリンパ腫はもともとのリンパ球の種類によって、Bリンパ腫、Tリンパ腫、ナチュラルキラー(natural‐killer:NK)またはNK/Tリンパ腫に大別されます。さらに細かな特徴により、非ホジキンリンパ腫は20種類程度に分類されます。。

また症状の現れ方、病気の進行の速さから
①年単位でゆっくり進む(低悪性度リンパ腫)
②月単位で進む(高悪性度リンパ腫)
③週単位で進む(超高悪性度リンパ腫)
の3つに分類されます。

3. 悪性リンパ腫の症状について

3-1 症状の分類
症状は大きく2つに分けられます。
① リンパ腫細胞が腫れることによる症状
リンパ節が腫(は)れて大きくなること(リンパ節腫大)です。実際にどこのリンパ節が腫れてくるかは患者さんにより異なりますので症状の現れ方も変わってきます。

② リンパ腫細胞から出てくる物質により生じる症状
もともとリンパ腫細胞のもととなっている‘リンパ球’は病原体から体を守る免疫の作用を担当する細胞です。インフルエンザなどで高熱が出るのはウイルスを排除しようとリンパ球達が体内でさまざまな物質を出し病原体を追い出すためと言われています。
通常ではこの反応も調節されていますが、悪性リンパ腫の患者さんではこの反応がうまく調整できず暴走したリンパ腫細胞によって高熱、食欲低下、発汗、体重減少などの全身症状を起こします。原因が分からなく長く続く発熱‘不明熱’の検査の際‘悪性リンパ腫が発覚する’ことも良く経験します。
体内激しい寝汗や体重減少、発熱といった症状を“B症状”といい、20%以下の患者さんに認められます。悪性リンパ腫に対して治療をしなけば症状が改善することはありません。

3-2 節性病変と節外性病変
悪性リンパ腫の症状を考えるときには特にリンパ節の中か外かによって
 節性(せつせい)病変(びょうへん)…リンパ節のなかでリンパ腫細胞が増殖している
 節外性(せつがいせい)病変(びょうへん)…リンパ節以外の場所でリンパ腫細胞が増殖
の2種類に分類されます。リンパ節そのものが腫れてくる節性病変がある患者さんは2/3以上と言われていますが、中にはリンパ節が全く腫れていない、つまり節外性病変しかない患者さんもいらっしゃいます。

3-3 リンパ節の腫れ方
私たちの身体には個人差がありますがおよそ300から1200個、平均して600個ほどのリンパ節が存在すると言われています。
正常のリンパ節はそらまめのような形をしていますが、悪性リンパ腫の患者さんのリンパ節は丸く腫れるのが特徴です。親指の大きさ、2cm以上のリンパ節は腫れていると判断します。
持続性…経過を観察しても小さくならないか逆に大きくなるような
無痛性…痛みのない    
リンパ節の腫れが特徴です。

3-3 代表的なリンパ節の場所・節外性病変と症状
場所ごとの症状を示します。
(節性病変)
場所 軽度 重度
扁桃 のどの違和感 息苦しさ、食事のむせ、誤嚥、窒息
頸部 くびにしこり 呼吸困難、痛み、窒息
鎖骨下 鎖骨の周りにしこり 腕のむくみ、痛み、しびれ
腋窩 わきの下のしこり 脇が閉まらない、腕のはれ、痛み、しびれ、
肘 ひじの周りにしこり 肘の運動制限、痛み
縦隔 無症状 呼吸困難、せき、顔面と腕の腫れ(上大静脈症候群)
肺門 無症状 呼吸困難、せき、肺炎、無気肺
傍大動脈 無症状 腹痛、背部痛、水腎症による背中の痛み、腎不全、食欲低下、便秘
腸間膜 無症状 腹痛、背部痛、水腎症による背中の痛み、腎不全、食欲低下、便秘
脾臓 無症状 腹痛、背部痛
腸骨 無症状 足のむくみ、痛み、しびれ、歩行困難
鼠径、大腿 股のつけ根にしこり 足のむくみ、痛み、しびれ、歩行困難
膝窩 膝の裏にしこり 下腿のむくみ、痛み、しびれ、歩行困難
(節外性病変)
場所 軽度 重度
胃 無症状、食欲低下 上腹部痛、血便、腹膜炎
小腸 無症状、下痢、便秘、消化不良 腸閉塞、腹膜炎、血便
大腸 無症状、下痢、便秘 腸閉塞、腹膜炎、血便
鼻腔 鼻づまり 中耳炎、頭痛、副鼻腔炎
眼窩 無症状 視覚障害、視力低下
皮膚 皮疹 腫瘤、出血、感染
気管支 無症状 呼吸困難、せき、肺炎、無気肺
甲状腺 無症状 しこり、呼吸困難
骨髄 無症状 血球減少
精巣/卵巣 無症状 腫れ、痛み、中枢浸潤
脳・脊髄液 無症状 頭痛、精神症状、けいれん、麻痺

場所によって、そして腫れ方によって大きく症状が異なります。
触って分かりやすい表在リンパ節や皮膚の悪性リンパ腫は自覚しやすい病変ですが、
胸腔内、腹腔内などの身体の表面から触ることができない病変は自覚症状が出るまで気が付かれないことがあります。

4. 悪性リンパ腫の診断とその他の検査

以上のことから、いつまでも腫れが続くか、次第に大きくなるようなリンパ節腫大に気づいたとき、もしくは精密検査を受けてリンパ節が腫れていることが判明したら医師の判断で適切な部位の生検をすることが極めて重要です。リンパ節は感染をはじめとしてさまざまな原因で腫れますので、その鑑別診断も重要です。

リンパ腫と診断されれば、その後の適切かつ最良の治療を開始するために必要な検査がはじまります。血液検査、尿検査、レントゲン検査、心電図、心臓の超音波検査、胃カメラは基本ですが、リンパ腫の広がり(臨床病期といって、I期からIV期まであり、I期は早期、IV期は進行期です)を決定するのに最も重要な検査が全身のCTスキャン検査です。最近では、これに加えてPET検査があります。特に、ホジキンリンパ腫と中悪性度リンパ腫の病期の決定や、治療後の効果判定に有用であることがわかってきていて、実施することが望ましいとされています。
病気の広がりはAnn Arbor分類という分類法が用いられます。

5. 悪性リンパ腫の治療

5-1 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療について
(進行期)
II期、III期、IV期の進行期に対しては「CHOP療法」という治療が選択されます。B細胞リンパ腫であればBリンパ球の表面にあるCD20という物質に対する抗体薬(分子標的薬)であるリツキシマブを併用した「R-CHOP(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)」6-8コースが標準治療です。

これは、R-CHOP8コースがCHOP8コースよりも明らかに優れているとの成績が、60~79歳の症例を対象としたランダム化比較試験で公表されたことによります。また、60歳以下のリスクが低い症例に対しても、最近の試験でR-CHOP6コースがCHOP6コースよりも明らかに優れていることが公表されました。

(B細胞リンパ腫の限局期の一部)
R-CHOP3コース後に病変部位の区域に放射線を照射する方法かR-CHOP6-8コースが選択されますが限局期と診断するのは非常に困難です。

5-2 CHOP療法の導入と外来化学療法
当院では初回の化学療法は副作用をしっかりと観察するために原則入院で治療を行います。問題なければ入院期間は11-15日前後です。入院での1コース目の治療でその効果と副作用を見極めたうえで、以後は外来化学療法へと移行します。

通常CHOP療法、R-CHOP療法は3週間毎に行いますので6コースでも3×6=18週間、8コース行った場合には3×8=24週間と治療の期間は最短でも4か月半かかります。

抗がん剤は点滴治療となりますが、実際1コース21日間のなかで抗がん剤を点滴するのは1日のみとなります。その他の日は抗がん剤の点滴投与はありません。そのため治療は上述のように外来治療が中心となります。

この期間を入院治療のまま行いますと体力の低下が著しく生活の質が低下することが報告されています。今後ご説明します感染予防ができれば外来化学療法を行っている患者さんの方が治療の合併症も少なく社会生活も通常通り行えています。

ほとんどの患者さんは、2コース以後の外来治療が可能となります。すべての患者さんで好中球減少、血小板減少、赤血球減少による貧血が出現しますが、赤血球や血小板の輸血を必要とするような著明な減少はまれです。好中球の減少の程度が最も強く出ますので、1コースでその程度を確認し、減少程度が強い場合は好中球を回復させるG-CSFの皮下注射を実施する場合があります。感染予防として抗菌剤、ST合剤の内服、イソジンガーグルでのうがいをしていただきます。発熱したら直ちに抗生剤を投与するなどすれば、ほとんどの患者さんが安全に治療を継続できます。

5-3 抗がん剤治療による副作用
抗がん剤の副作用については別途詳細に説明しますが今回は代表的なことについて説明します。

①吐き気:吐き気止めの注射を治療前にすることになってからはほとんどの起こることはありません。もし治療開始後症状が現れたら追加の吐き気防止をするので教えてください。前日はなるべく過食はさけましょう。気分が悪い時には冷水でうがいなどをすると爽快感が得られることもあります。

②骨髄抑制:治療開始後1週間~10日程経過した時点で白血球などが減ってきます。白血球がひどく減った状態が長く続くと感染症を起こしやすくなるので下がりすぎたら白血球を増やす薬を注射します。後は普段からうがいと手洗いを心がけて下さい。

③脱毛:治療をはじめて2~3週間くらいたった時点から急に出てきます。御自分のイメージが変わってしまうこともあり皆さんショックを受けられます。しかし髪質が変わることがありますがほとんどの患者さんは治療が終わってまた生えてきます。治療を始めたあとは防止やバンダナ、かつら(ウィッグ)などを使っていらっしゃる方が多いです。

③ 不妊: CHOP療法の8コースでは男性の精子が破壊され、男性不妊を来すことがあります。治療を待てる患者さんで、精子保存を希望される方は申し出てください。

それぞれの治療薬による特徴的な副作用について説明します。
C: エンドキサン 吐き気、むくみ、体重増加、出血性膀胱炎(まれ)
H:ドキソルビシン 皮膚障害、心毒性
O:オンコビン  末梢神経障害、便秘
P: プレドニゾロン 高血糖、高血圧、白内障、緑内障、大腿骨頭壊死など

命にかかわるような重篤(じゅうとく)な副作用は極めてまれで、副作用に十分注意しながら治療を行ってまいります。

リツキシマブ(リツキサン)について

リツキシマブを注射すると、発熱、悪寒、悪心(おしん)、頭痛、疼痛(とうつう)、掻痒(そうよう)、発疹(ほっしん)、咳(せき)、虚脱感、血管浮腫(けっかんふしゅ:舌、咽喉の腫れ)等の症状が、投与開始後や注入速度上昇後に突然表れることがあります。これらを輸注関連毒性(Infusion Reaction)といいます。この予防のため、点滴30分前に抗ヒスタミン薬と鎮痛解熱剤を内服していただきます。それでも症状が出る場合には、速やかに最善の処置をします。この副作用は、2コース以降には極めて発現しにくくなることが知られています。極めてまれに命にかかわる重篤な「腫瘍崩壊症候群」を生じることがありますが、起きやすい病状かどうかを前もって判断します。場合によっては、抗がん剤の投与開始後にリツキシマブを投与することも講じ、もしも腫瘍崩壊症候群が出現したら最善の処置をします。

再発リンパ腫の治療
ホジキンリンパ腫も中悪性度リンパ腫も救援化学療法を施行し、60~65歳以下で救援化学療法の効果が得られた(奏効した)場合は、そのあとで自家造血幹細胞移植併用の大量化学療法を実施することがあります。