サンラザロ病院研修プログラムの立ち上げと経緯
大分医科大学名誉教授 元副学長 三舟求眞人

大分大学医学部では、フィリピンのサン・ラザロ病院において二週間の臨床実地研修を、平成14年度から行っているが、実施にいたる経緯とその目的について説明をしたい。

話はかなり以前に遡るが、平成11年にフィリピン国の厚生省から、当時の大分医科大学医学部の微生物学講座にフィリピンの狂犬病制圧に関する共同実験の申し出があった。狂犬病の発症病理について研究を進めていた同講座は早速この提案を受け入れ、附属動物実験施設とともに翌年からフィリピンに出かけ、2年間にわたり同国に流行する狂犬病ウイルスを収集し、分子遺伝学的研究を開始した(Nishizono A, Mannen K, Mifune K, 他 "Genetic analysis of rabies virus isolates in the Philippines. Microbiol Immunol. 2002;46(6):413-7.) 。その母体になったのが現在でも狂犬病患者が多く入院してくる上記のサン・ラザロ病院だったのである。

同病院はフィリピン最大の国立の感染症専門病院で、その歴史は古く、ベッドは8百床をこえ、デング熱、マラリア、細菌およびウイルス性脳脊髄膜炎、エイズ、結核、腸チフス、赤痢、コレラ、レプトスピラ症、狂犬病など、日本ではもはや、数十年間見られない、あるいは非常に稀な感染症患者が入院加療を受けている。

しかし、上記のような感染症は交通機関の発達と人の動きがグローバルした今日、この地域に限られた疾患ではなく、いつ我々の前に現れても不思議ではないのである。現に、デング熱やマラリアなどの輸入例は毎年100例を超えており、赤痢など消化器感染症も実数は把握できていないがかなりの数に上ると推定されている。しかしながら、戦後の医学教育においては、感染症は制圧されたとの考えから、感染症に関する教育は医学教育の中であまり重要視されてこなっかたといっても過言ではない。
そこで本学は、学生にこのよう感染症患者を学生時代に診させておくことが、何10編の論文や教科書で勉強するより、インパクトが強く、長く記憶に残ってくれることを確信し、同病院との間に大学間学術協力協定を平成13年11月に締結した。締結には、本学には熱帯における感染症の研究者が多く在籍する、アジア・カリブ医学教育研究センター(現:総合科学研究支援センター、社会環境医学分野)があり、学生の事前の勉強を十分に支援できること、マニラは福岡から4時間の近距離にあること、英語が公用語であることなどの好条件が後押しをした。

2週間の間には近くにあるWHOの西太平洋事務局を訪問し、アジア地域の疾病の状況を聞き、国際保健の重要性を理解する時間もあり、このプロジェクトの目的は、国際感覚に溢れ、わが国へ輸入の可能性が高い感染症を適切に診断し、治療できる医師の育成にあるのである。そして、このような学生の中から、将来一人でも多くの感染症研究や臨床に従事する医師が輩出してくることを心から期待するものである。

プログラムについて