小坂 聡太郎 Sotaro Ozaka
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小坂 聡太郎 Sotaro Ozaka (M.D., Ph.D.) 大分大学医学部感染予防医学講座 研究協力者 |
炎症性腸疾患の病態は不明な点が多いが、近年腸内細菌と腸炎の関連が盛んに研究されており、これをターゲットとした治療法も開発されている。Secretory leukocyte protease inhibitor (SLPI)は、肺、涙腺、性腺、皮膚等において分泌され、プロテアーゼを阻害する事によって組織損傷に対して保護作用を示すと考えられている低分子量タンパク質である。マクロファージにおいて、SLPIはグラム陰性菌の構成成分であるLPSの刺激によって誘導され、TLRから始まる一連の自然免疫の活性化調節に関与している可能性が示唆されているが、腸管における作用は不明な点が多い。我々は、マウス腸上皮細胞株をLPSで刺激するとSLPIが強く誘導されることを見出し、SLPIの腸管組織における役割を明らかにしようという着想に至った。そこで、SLPI欠損マウスを用いて検討したところ、SLPIのプロテアーゼ阻害活性が、好中球が産生するエラスターゼ(NE)の過剰なNE活性を抑制し、NEによって引き起こされる腸管上皮バリアの破壊を防ぐことによって腸炎の発症を抑えることを明らかにした。この成果は2021年にGenes to Cellsで発表した(業績2)。 |
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研究テーマ
1. 炎症性腸疾患におけるプロテアーゼ阻害分子SLPIの機能解析に関する研究
2. 抗生物質起因性腸炎に対する漢方薬の効果に関する研究
研究のキーワード
SLPI、DSS腸炎、遺伝子組換えマウス、薬剤起因性腸炎、漢方薬、腸内細菌叢
学会活動
1. 日本内科学会 認定内科医
2. 日本消化器病学会 専門医
3. 日本消化器内視鏡学会 専門医
4. 日本ヘリコバクター学会 H.pylori感染症認定
5. 日本免疫学会
6. 日本分子生物学会
経歴 研究業績
2005年 岩田高等学校卒業卒業
2005年 大分大学医学部医学科入学
2011年 大分大学医学部医学科卒業
2011年 大分県立病院 臨床初期研修医
2012年 大分大学医学部付属病院 臨床初期研修医
2013年 大分大学医学部 消化器内科
2013年 大分市医師会立アルメイダ病院 消化器内科
2016年 国家公務員共済組合連合会 新別府病院 消化器内科
2018年 大分大学医学部 消化器内科
2018年 大分大学医学部感染予防医学講座大学院
2022年 大分大学医学部感染予防医学講座助教
2024年 大分大学医学部消化器内科学講座助教
1. Ozaka S, Sonoda A, Kudo Y, Ito K, Kamiyama N, Sachi N, Chalalai T, Kagoshima Y, Soga Y, Ekronarongchai S, Ariki S, Mizukami K, Ishizawa S, Nishiyama M, Murakami K, Takeda K, Kobayashi T. Daikenchuto, a Japanese herbal medicine, ameliorates experimental colitis in a murine model by inducing secretory leukocyte protease inhibitor and modulating the gut microbiota. Front Immunol. (2024). Oct 25;15:1457562. doi: 10.3389/fimmu.2024.1457562. https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2024.1457562/full
炎症性腸疾患(IBD)は、腸管上皮バリア機能の障害によって引き起こされると考えられる難治性の腸管炎症性疾患です。我々は、結腸上皮細胞から分泌される分泌型白血球プロテアーゼ阻害因子(SLPI)が、抗プロテアーゼ作用および抗菌作用を発揮することで腸管炎症を抑制することを見出しました(業績1)。大建中湯(DKT)は、様々な消化器疾患に対して最も一般的に処方される日本の伝統的な漢方薬の一つで、実験動物を用いた研究でDKTが抗炎症効果を発揮することが明らかになっていますが、その詳細な分子メカニズムは不明です。そこで、マウス大腸炎モデルを用いてDKTの抗炎症メカニズムを解明することとしました。DKT経口投与により、パラバクテロイデス属、アロバキュラム属、アッカーマンシア属などの酪酸産生菌数が増加し、結腸内の酪酸を含む短鎖脂肪酸レベルが上昇、SLPI発現が誘導され、野生型マウスにおけるDSS誘発性大腸炎が改善されました。マウス結腸癌細胞株をDKTまたは酪酸で処理すると、SLPIの発現が有意に増強されました。さらに、DKTの補給は野生型マウスではTJPの発現増強を介して腸管上皮バリアを保護しましたが、KOマウスではその効果は認められませんでした。DKTは野生型マウスでは腸内細菌叢の構成を変化させましたが、KOマウスでは変化せなかったことから、DKTがSLPI依存的な方法で結腸細菌群集を変化させることが示唆されました。これらの結果は、DKTがSLPI誘導を介して腸管上皮バリアに抗炎症効果を発揮することを示しており、少なくともその作用機序の一部は、酪酸産生菌の増加および結腸内酪酸レベルの上昇によるものであると言えます。本知見は、DKTの炎症性腸疾患(IBD)に対する治療効果のメカニズム解明に寄与するものと考えられます。
2. Ozaka S, Sonoda A, Ariki S, Kamiyama N, Hidano S, Sachi N, Ito K, Kudo Y, Minata M, Saechue B, Dewayani A, Chalalai T, Soga Y, Takahashi Y, Fukuda C, Mizukami K, Okumura R, Kayama H, Murakami K, Takeda K, Kobayashi T. Protease inhibitory activity of secretory leukocyte protease inhibitor ameliorates murine experimental colitis by protecting the intestinal epithelial barrier. Genes Cells. (2021). Oct;26(10):807-822. doi: 10.1111/gtc.12888. Epub 2021 Aug 17. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/gtc.12888
炎症性腸疾患(IBD)は腸の慢性炎症性疾患で、腸管上皮バリア(IEB)の機能不全がIBD発症の引き金になると考えられています。Secretory leukocyte protease inhibitor(SLPI)は、セリンプロテアーゼ阻害因子の一種で、皮膚や肺の組織保護作用に関与していることが知られています。我々は、リポポリサッカライド (LPS)刺激した大腸癌細胞株とデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)投与したマウスの大腸でSLPIが誘導されることを見いだしました。SLPI欠損マウスにDSSを投与して大腸炎を誘発させたところ、野生型マウスと比較して重度の炎症が持続しました。SLPI欠損マウスの大腸粘膜は、野生型マウスと比較して、好中球の浸潤が著しく炎症性サイトカインのレベルも高い重度の炎症を示しました。さらに、SLPI欠損マウスでは好中球エラスターゼ(NE)活性が上昇し、大腸ではIEB機能が著しく低下し、アポトーシス細胞数の増加を伴っていました。重要なことは、DSS誘発大腸炎がプロテアーゼ阻害剤SSR69071やリコンビナントSLPIの投与により改善されることです。これらの結果は、SLPIのプロテアーゼ阻害活性が、過剰なNE活性によって引き起こされるIEB機能障害を防ぐことによって大腸炎から保護することを示唆し、腸の恒常性調節におけるSLPIの新規機能およびIBDの治療アプローチに洞察を与えるものであると言えます。
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