医療のIT化と患者さんのプライバシー
大分大学医学部附属病院
副病院長(総務・経営・企画担当)
心臓血管外科教授
葉 玉 哲 生
明治時代に法制化された、医師法ではなく刑法(秘密漏示)第134条に、「医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁護人、公証人又ハ此等ノ職ニ在リシ者、故ナク其業務上取扱ヒタルコトニ付キ知得タル人ノ秘密ヲ漏泄シタルトキハ六月以下ノ懲役又ハ百円以下ノ罰金ニ処ス」という条文があり、医師は正当な理由無く患者さんの情報を第3者に漏らすと刑法により処罰されることになっています。
医療を実施するにあたり、患者さんのプライバシーを保護することは、医療従事者にとって大変重要な責任事項です。医師にとりましても自分が病気になった時、身体情報は秘密にしたいと思うことは皆さんと同様です。患者さんの医療情報には、病名や予後をはじめ、身体所見、血液生化学検査データ、CTなどの画像所見および手術資料など多岐に亘って存在します。
私共医療人は常に専門医学雑誌、図書、学会参加などで最新の情報を入手し最良の医療を提供する努力をし、私共も特殊な疾患や稀な疾患の検査データや手術標本から得られた顕微鏡所見など重要な知見を論文や学会で報告することで、医療全般の進歩・発達に貢献しています。これらの論文や研究報告には患者さんが誰であるか判るような情報は決して明らかにしないことが医師に課せられた守秘義務であります。学会で使用するスライドなどには、氏名は当然、患者さんの個人番号(ID番号)、特定の患者さんを推定出来るような写真や撮影期日なども厳重にチェックしています。最近、病院も急速に電子化され、レントゲン写真など画像情報はデジタル化され保存や検索、他の病院などへ送信も可能となりました。最近のCT画像などはmm単位の解析が可能なほど鮮明になり身体のあらゆる立体構造解析が正確な診断に貢献していますが、高度の電子化された情報ほど容易に病院外へ流出する危険が有りますので、病院の医療情報管理は厳重に行われなければなりません。病院には多数の専門職員が働いています。患者さんの情報に接することが出来る職員は限定され、それぞれパスワードで機密管理を行っていますのでご安心下さい。近年、遺伝子情報が診断や治療に導入され新しい医療の分野が発達しましたが、この様な高度の個人情報は外部委員を含めた倫理委員会のもとで管理されています。
ところで、これらの個人情報を診療上、他の病院へ提供(医療情報提供書)することは患者さんのためになっています。患者さんの同意を得て病状経過や検査データなど、診断や治療のための必要な情報は提供しなければ、検査が何度も行われ医療費も無駄になり患者さんの負担も多くなります。
電子カルテ時代となりつつある今日、患者さんの個人名など基本情報と共に診療目的以外に医療情報を持ち出す犯罪を如何に防止するかは、病院の管理者の重大な責務と考えています。守秘義務の意義を真摯に受け止め、医療専門職としての倫理性と品位の向上はもとより、本院の基本理念である“患者本位の最良の医療”につとめていきます。
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