Doctoral Program

◆ interim report 2023 




令和5年度大学院中間発表会が開かれました。
感染予防医学講座からは、大学院3年生の曽我くんが発表しました。

 日時:令和5年9月6日(水) 8:55-19:10
 場所:臨床中講義室
 当番世話人: 花田 礼子教授


氏名:曽我 泰裕
所属:感染予防医学講座
修学指導教員氏名:花田 俊勝、研究指導教員氏名:小林 隆志
演題目:脂質メディエーターPEAのT細胞に対する作用の解明
座長:甲斐 恵 准教授(臨床薬理学講座)・粂 慎一郎 助教(病態生理学講座)

【目 的】
脂質メディエーターの一種であるPalmitoylethanolamide (PEA) は、主に抗原提示細胞に対して炎症応答を阻害することが報告されている。しかし、T細胞に対するその作用は未だ不明である。本研究では、その作用をin vivo およびin vitroの実験によって明らかにすることを目的とした。

【方 法】
1)マウスCD4+T細胞を抗CD3, CD28抗体で刺激し、PEAを加えることでT細胞の活性化マーカーであるCD25, CD69の発現上昇が抑制されるかフローサイトメトリーにより解析した。
2)マウスナイーブT細胞をPEAの存在下でTh1, Th17, 制御性T細胞 (Treg) 細胞それぞれの分化条件で4日間培養し、各細胞へ分化した細胞の割合をフローサイトメトリーにより解析した。同時に細胞培養上清を用いてTh1, Th17細胞が産生する炎症性サイトカインIFNγ, IL-17の濃度をELISA法で解析した。さらに、Th1, Th17, Treg細胞それぞれのマスター転写因子として知られるT-bet, RoRγt, Foxp3の発現レベルをリアルタイムPCR法にて解析した。
3)マウスにトキソプラズマ原虫ME49株を1×103腹腔内投与にて感染させた。同時にPEAを連日50mg/kg腹腔内投与し、感染後3週間に渡りその生存率を解析した。

【結 果】
1)PEA添加群において CD25, CD69の発現は共に非添加群と同程度であった。
2)PEA添加群では非添加群に比べてTh1細胞,Th17細胞の割合が有意に低下した。一方、Treg細胞の割合は両群で差がなかった。IFNγ, IL-17は共にPEA添加群で非添加群に比べて有意に低い値を示した。T-bet, RoRγt, Foxp3の発現はいずれもPEA添加群と非添加群で同程度であった。
3)PEA非投与群は感染後9日目より死亡し始め、感染後3週間で35%の個体が生存した。一方PEA投与群は感染後7日目より死亡し始め、感染後3週間で7%の個体が生存した。両群の生存率はLog-rank testにより有意差を認めた。

【考察(問題点等を含む)】
PEAは抗CD3, CD28抗体刺激によるT細胞の活性化を抑制しなかった。PEAは炎症性T細胞サブセットTh1, Th17細胞の分化を抑制するが、抑制性T細胞サブセットTreg細胞の分化には影響しないことが明らかになった。また、トキソプラズマ原虫に対する感染防御に重要なTh1応答をPEAが抑制することが生体レベルで示唆された。今回の解析(添加4日後)ではPEAがT-bet, RoRγtの発現に影響しなかった。これらは転写因子であることを考慮し、より早期での再解析が必要と考察した。PEAは上気道炎の治療薬や抗肥満薬として使用されており、その安全性はすでに保証されている。本研究はドラッグリポジショニングの観点から、PEAがT細胞の異常活性が原因となる自己免疫疾患の治療薬として応用できる可能性を示す。

【今後の計画】
アレルギー疾患の発症に関与するTh2細胞に与えるPEAの効果を明らかにする。また、トキソプラズマ感染マウスモデルを用いて、PEAがTh1応答に与える影響を生体レベルで明らかにする。さらに、PEAがTh1, Th17細胞分化を抑制するメカニズムを明らかにする。