News 2025

 ◆学会(日本分子生物学会)

2025年12月3日-5日



2025年12月3–5日 日本分子生物学会に参加しました

2025年12月3日(水)から5日(金)にかけて、横浜のパシフィコ横浜で開催された日本分子生物学会(MBSJ 2025)に、当講座のメンバーが参加しました。当講座からは、 神山、岡本、佐知、小坂、鹿子嶋、Nan、野田がポスター発表を行い、活発な議論が交わされました。 また、生化学分子遺伝学講座の花田教授もセッション「GTP生物学の進歩」にてオーラル発表を行い、多くの参加者の注目を集めました。 学会期間中は、最新の研究動向に触れ、国内外の研究者との交流を深める貴重な機会となりました。 夜には講座メンバーで忘年会を開催し、1年間の研究活動を労いながら和やかなひと時を過ごしました。 皆さん、1年間お疲れ様でした。来年もさらなる研究の発展を期待しています。
Annual Meeting 2025 (December 3–5, Yokohama)

From December 3 (Wed) to 5 (Fri), 2025, members of our department attended the Annual Meeting of the Molecular Biology Society of Japan (MBSJ 2025) held at Pacifico Yokohama. From our department, Kamiyama, Okamoto, Sachi, Ozaka, Kagoshima, Nan, and Noda presented their work in the poster sessions, engaging in active scientific discussions with researchers from various institutions. In addition, Professor Hanada from the Department of Biochemistry and Molecular Genetics delivered an oral presentation in one of the sessions, attracting significant attention from attendees. The conference provided an excellent opportunity for our members to learn about the latest developments in molecular biology and to strengthen interactions with researchers from Japan and abroad. In the evening, we also held a year-end gathering with department members, celebrating the accomplishments of the past year in a warm and collegial atmosphere. Thank you all for your hard work throughout the year. We look forward to continued progress and achievements in the coming year.


神山 長慶:トキソプラズマの新規病原性因子の探索
 トキソプラズマは全ての恒温動物に感染する人獣共通寄生虫で、抗体を保有していない妊婦に初感染すると胎児に水頭症をはじめとした重篤な症状や流産が引き起こされる先天性トキソプラズマ症を引き起こす。また、免疫不全者に感染した場合、重篤な中枢神経症状を引き起こす。しかし、現在においても有効なワクチンは未だ開発されていない。近年、トキソプラズマ症ワクチンの開発研究が世界中で進められており、遺伝子組み換えトキソプラズマを用いた生ワクチンの有効性がマウスを用いた動物実験で実証されている。したがって、トキソプラズマの新たな病原性因子を同定することは、トキソプラズマに対する予防ワクチンの将来的な開発の手がかりとなる可能性がある。本研究では、トキソプラズマの新たな病原性因子を同定するため、RNAシークエンス解析により、強毒性株と弱毒性株の遺伝子発現パターンを網羅的に比較し、強毒性株で高発現する候補遺伝子のノックアウト株を樹立した。これらの遺伝子欠損株を用いて感染実験を行い、新たな病原性因子の同定および有効なワクチンの開発を目指す。


岡本 将明:マラリア感染に伴うTh1型制御性T細胞(Th1-Treg)の出現
 マラリアは世界的に重大な感染症であり、その病態形成には病原体そのものの影響に加え、宿主免疫応答の過剰な活性化が深く関与している。なかでもインターフェロンγ(IFN-γ)は感染防御に必須のサイトカインであるが、その過剰な作用は組織障害を引き起こすことが知られており、免疫応答の適切な制御が病態抑制に不可欠である。制御性T細胞(Treg)は免疫抑制によりこのバランスに寄与するが、Tregの活性化は病原体排除を妨げる側面も有し、特にマラリア感染ではこの側面が強く、病原体にとって有利(宿主にとって不利)に働く。  Tregには様々なサブセットがあることが分かってきており、Th1型Treg(Th1-Treg)はIFN-γにより誘導される。マラリア感染防御を阻害するTregの中にあって、感染防御に必要なIFN-γによって誘導されるという点はTh1-Tregの特異性であるが、そもそもマラリア感染時にTh1-Tregが誘導されるかは分かっておらず、その生理的意義は明らかでない 我々は弱毒性マラリア株(Py17X)および致死性マラリア株(Py17XL) の両株において、マラリア感染時のマウス生体内でTh1-Tregが増加していることを見出した。今後、IFN-g依存的なTh1-Tregの誘導機構の有無、Th1-Tregの動態、そして病態への関与を解明することを目指す。


佐知 望美:CCL20/CCR6経路によるRoRγt+Foxp3+制御性T細胞の腸管局在と腸炎の病態への影響
 走化性因子ケモカインは免疫細胞の遊走を制御し、免疫応答に重要な役割を果たす。CCL20は、濃度勾配を形成することにより、その受容体であるCCR6を発現するT細胞、B細胞、樹状細胞を標的組織へ誘引する。我々はCCL20の腸管免疫における機能を明らかにするため、CRISPR/Cas9によりCCL20欠損マウスを作製し、腸管関連リンパ組織(GALT)に着目して解析を行った。 CCL20は腸管組織、特にパイエル板で豊富に産生される。定常状態では胸腺、骨髄、脾臓の免疫細胞構成に有意差はなかったが、欠損マウスでは腸管上皮内リンパ球(IEL)のγδT細胞やパイエル板の細胞数が減少していた。さらに、腸間膜リンパ節やパイエル板、粘膜固有層に存在するRORγt+Foxp3+制御性T細胞(pTreg細胞)の割合も低下していた。 DSS(2.5%デキストラン硫酸ナトリウム塩)を投与して実験的大腸炎を誘導したところ、CCL20欠損マウスおよびCCR6欠損マウスは野生型と比較して体重減少が著しく、腸炎スコアも高く、大腸の短縮が認められた。HE染色による組織学的解析でも、両欠損マウスでは粘膜の潰瘍形成が広範に認められ、腸炎の重症化が示唆された。 さらに、pTreg細胞の腸管組織への局在におけるCCL20/CCR6経路の重要性を検証するため、野生型またはCCR6欠損マウス由来のGALTからCD4?T細胞を回収し、RAG2欠損マウスの腹腔内に移入した。20日後に粘膜固有層の細胞を解析したところ、CCR6欠損マウス由来T細胞移入群では、T細胞全体およびFoxp3+pTreg細胞の再構築が著しく低下していた。 以上の結果から、pTreg細胞の腸管への移動はCCL20/CCR6経路に依存しており、これが障害されることで腸粘膜の免疫恒常性が脆弱化し、DSS誘導腸炎の重症化につながると考えられた。現在、CCR6欠損マウス由来T細胞を移入したpTreg移入マウスにDSS腸炎を誘導し、その病態に与える影響の解析を検討している。


小坂 聡太郎:分泌型好中球プロテアーゼ阻害分子(SLPI)の炎症性腸疾患における新規バイオマーカーとしての可能性
 【目的】炎症性腸疾患(IBD)は一度診断されたら生涯に渡る治療継続が必要であり、病勢を非侵襲的に把握するためのバイオマーカーの開発が望まれている。分泌型好中球プロテアーゼ阻害分子 (SLPI)は腸管保護分子であり、腸内細菌の成分であるリポポリサッカライドの刺激や腸炎誘導により腸上皮から分泌される。IBDの病態には腸内細菌が関与しており、SLPIがIBDに特異的なマーカーになるのではないかと考えた。そこで今回、マウス腸炎モデルとIBD患者から採取した生体試料中のSLPIをELISAで定量化し、SLPIがIBDの新規非侵襲的バイオマーカーになり得るかどうか検討した。 【方法】野生型マウスにDSSを投与し大腸炎モデルを作製した。腸炎誘導後は体重と症状(血便、下痢)をモニタリングし腸炎の重症度を評価した。また経時的に生体試料(血液、糞便)を採取し、各時点でのSLPIをELISAで定量化した。SLPIの発現と局在を確認するため、腸炎誘導7日目にマウス結腸を摘出し、ウエスタンブロットと免疫染色を行った。さらに当院通院中の健常者、寛解期・活動期IBD患者の血液と便を回収し、ELISAでSLPIを定量化した。 【結果】腸炎誘導後の野生型マウスにおいて、便中SLPIが腸炎非誘導群と比較して有意に増加した。一方で、血清中のSLPIは腸炎誘導群と非誘導群で差を認めなかった。免疫染色で局在をみると、腸炎誘導前の結腸ではSLPI発現は認められなかったが、腸炎誘導後の結腸杯細胞内に著明に増加した。次にヒト検体において、便中SLPIの平均値は健常者群で102.4 pg/mL、寛解期IBD群で104.2 pg/mL、活動期IBD群で157.2 pg/mLであり、活動期IBD群で高値となる傾向を認めた。クローン病を除外して潰瘍性大腸炎(UC)のみで解析を行うと、健常者群で59.3 pg/mL、寛解期UC群で52.6 pg/mL、活動期UC群で193.2 pg/mLであり、有意差はないが、活動期UC患者では便中SLPI値が健常者および寛解期UC患者と比較して高値を示した。一方で各群の血清SLPIに差は認めなかった。 【結論】SLPIは腸炎により結腸の杯細胞から分泌され、重症度に応じて発現量が変化することから、潰瘍性大腸炎の便中マーカーとして応用できる可能性が示唆された。


鹿子嶋 洋明:Analysis of the Mechanisms Underlying Exacerbation of DSS-induced Colitis in the absence of CCL9-CCR1 signal
 【背景・目的】CCL9はマウス腸管に高発現するCCケモカインであり、その受容体CCR1は樹状細胞やマクロファージ、T細胞など多様な免疫細胞に発現する。炎症性腸疾患(IBD)におけるケモカインの重要性は広く認識されている一方で、CCL9–CCR1経路の具体的役割は未解明である。本研究では、CCL9欠損(CCL9 KO)およびCCR1欠損(CCR1 KO)マウスを用いたDSS誘導性大腸炎モデルを作製し、当該経路が腸炎の病態形成および免疫制御にどう寄与するかを検討した。 【方法】8〜12週齢のWT、CCL9 KO、CCR1 KOマウスに2%DSSを経口投与し、体重変化、疾患活動性指数(DAI)、結腸長、組織学的スコアを評価した。さらに腹腔マクロファージおよび大腸LPLをフローサイトメトリー法で解析し、M2マクロファージ(CD11b+, F4/80+, CD206+)、Th17細胞(CD3+, CD4+, Rorγt+)、制御性T細胞(Treg)(CD3+, CD4+, Foxp3+)などの割合を算出した。 【結果】両KO群はいずれもWTに比べ、体重減少・粘血便の発症が早期かつ顕著であり、結腸短縮が見られ、組織学的にも上皮障害、粘膜下浮腫、好中球浸潤が明らかに増悪していた。定常状態における腹腔ではM2マクロファージが両KOで有意に低下しており、炎症期の大腸LPLにおいてはTh17細胞がむしろ低下傾向、TregはWTと同程度に増加していた。このことから、Th17/Tregバランスの破綻よりも、制御性マクロファージとされるM2マクロファージの減少が重症化の主因である可能性が高いと考えられた。 【結論】CCL9–CCR1経路は腸炎に対し抑制的に機能し、特にM2マクロファージの維持・誘導を介して炎症制御に寄与することが示唆された。今後より詳細な解析を行い、IBDにおける新規治療標的としての可能性を検討する。


Supanuch Ekronarongchai:CCL20 and Its Receptor CCR6 Control IgE Release and Th2 Cell–Related Responses in a Papain-Induced Atopic Dermatitis Model
 Atopic dermatitis (AD) is a chronic skin disease characterized by inflammation, redness, and irritation. It is associated with elevated serum IgE levels and type 2 immune responses, including IL-4, IL-5, and TSLP production. Several studies have suggested that chemokines and their receptors regulate the pathogenesis of inflammatory skin diseases, including psoriasis and AD. CCL20, a chemokine that signals through its unique receptor CCR6, has been found to be upregulated in both the plasma and lesional skin of AD patients. To examine the roles of CCL20 and CCR6 in AD development, we induced AD by tape stripping and papain application to the ear lobes of CCL20- and CCR6-knockout (KO) mice twice per week for three weeks. Ear swelling, epidermal thickness, and clinical severity scores were significantly reduced in CCL20- and CCR6-KO mice compared to wild-type (WT) mice following papain challenge. Furthermore, the expression levels of Th2-associated cytokines, total IgE, and papain-specific IgE and IgG1 were significantly decreased in the KO mice. Th2 cell infiltration was also markedly reduced in the skin of papain-induced CCL20- and CCR6-KO mice compared to WT controls. These findings suggest that CCL20 and CCR6 play critical roles in the regulation of IgE production and Th2 immune responses in the development of AD.


野田 真央:NF-kBレポーターアッセイを用いた抗炎症作用を有する漢方薬のスクリーニング
 漢方薬は、消化器系や呼吸器系、皮膚疾患、神経系、循環器系など、多くの臓器に渡って幅広く利用されている。近年、抗炎症作用や免疫調節作用が注目されており、実臨床でもしばしば用いられる。しかし、これらの漢方薬の抗炎症作用を臓器横断的に比較した研究は少なく、その分子メカニズムについても不明な点が多い。 我々は、漢方薬による抗炎症作用の分子機構について、炎症応答の起点となる転写因子として知られるNF-κBの活性化に注目して評価することとした。そこで、NF-κB応答配列とクラゲ由来蛍光タンパク質(GFP)遺伝子をつないだレポーター遺伝子を構築し、マウスマクロファージ細胞株(RAW264.7)に導入して安定発現細胞株を樹立した。このレポーター細胞に10種類の漢方薬(葛根湯、十味敗毒湯、柴胡桂枝湯、半夏瀉心湯、補中益気湯、十全大補湯、荊芥連翹湯、人参養栄湯、小柴胡湯加桔梗石膏、柴苓湯)をそれぞれ0.2〜1.0mg/mL添加して前処理
した後、LPS(100 ng/mL)で24時間刺激し、NF-κB活性をフローサイトメトリー(FACS FortessaX20)により評価した。加えて、漢方薬を添加して48時間後に細胞数をカウントした。また、培養上清中の一酸化窒素(NO)についてもGriess法により測定し炎症応答の一指標として評価した。 LPS刺激したレポーター細胞のGFP発現量を平均蛍光強度で評価した結果、漢方薬未処理の対象群に比べ、補中益気湯や葛根湯で前処理したレポーター細胞のGFP発現量は有意に低下していた。また、培養上清液中のNO濃度も有意に抑制されていた。一方で、一部の漢方薬(半夏瀉心湯、荊芥連翹湯)については、高濃度の前処理により細胞増殖抑制が見られた。 これら結果より、補中益気湯および葛根湯は、NF-κB経路に作用して抗炎症効果を発揮することが示唆された。補中益気湯は、既報でもIL-6やTNF-αの抑制作用が確認されており、漢方薬による抗炎症作用の分子機構のさらなる解明が必要である。


夜には講座メンバーで忘年会を開催ました。沖縄料理を堪能しながら、1年間の研究活動を労いながら楽しいひと時を過ごしました。