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90年代初期より早期乳癌の手術は縮小傾向にあり、手術術式は乳房切除術から乳房温存手術へと変遷してきました。さらに最近では、センチネルリンパ節の概念が登場して以来、リンパ節転移の無い症例には腋窩リンパ節郭清を省略する時代を迎えようとしています。
さてセンチネルリンパ節とは腫瘍から最初にリンパ流を受けるリンパ節であり、所属リンパ節の中で最も早く癌の転移を来しやすい部位です。従ってこのリンパ節を同定し、転移がないことが確認できればそれよりも下流にあるリンパ節の郭清は省略できると考えられます。
現在行われているセンチネルリンパ節の同定法には大きく分けて色素法とガンマプローブ法(ラジオアイソトープ法)の2種類があります。色素法では、イソサルファンブルー、パテントブルー、インドシアニングリーン(ICG試薬)、インヂゴカーミンが使用されていますが、前2者は日本では入手困難で当院でもインドシアニングリーンで行っています。同定率は諸家の報告で様々ですが、概ね75−85%であり、私の経験でも同様ですが、最近では同定率はさらに向上しています。また赤外線カメラの使用により同定が容易になりました。
ガンマプローブ法、またはラジオアイソトープ法はアイソトープトレーサーとしてスズコロイド、またはアルブミンコロイド、フチン酸を用いることが多く99mTcで標識しガンマプローブを用いて術中にその放射レベルをカウントすることにより同定率90−95%の結果を得ています。通常はこの両者を併用することにより同定率は95%以上になることが報告されていますが、そのほとんどが肋間上腕神経、小胸筋、腋窩静脈に囲まれる部位に存在し、8%に腋窩以外の部位に存在するため検出限界が存在します。
さてここで問題となるのが正診率および偽陰性率ですが、術中の迅速診断では通常リンパ節を厚さ2mmの凍結切片で3レベルの検索が推奨されています。これにより正診率は86−98%ですが問題となる偽陰性率は6−42%にまで上り、その診断の困難さを示しています。すなわち術中の診断では転移陰性としたにもかかわらず、永久標本で転移陽性と判明する場合が存在することが無視できない程度に存在するのです。また2mm以下の微少転移をどうするかという問題も残されており、センチネルリンパ節生検が標準治療となるための今後の課題は山積みされています。現在
NSABP‐B‐32 という臨床試験が進行中であり、これによってセンチネルリンパ節転移陰性例を2群に振り分け、腋窩郭清をしなかった群と腋窩郭清を行った群での予後に差があるかどうかはっきりしてくるものと考えられます。
色素法とラジオアイソトープ法の比較 |
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長 所 |
短 所 |
色 素 |
放射線被曝なし
取り扱いが簡便
費用効果が高い |
皮膚切開後に診断
まれにアレルギーあり |
ラジオアイソトープ |
熟練を要さない
腋窩外の同定可能
術前診断可能 |
高 価
被曝あり
取り扱いが煩雑 |
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(文責 乳腺外科 山下眞一)
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