[発行] 大分大学医学部附属病院広報誌発行委員会

ヨウ素125シード線源永久挿入による
前立腺癌密封小線源療法

 

 前立腺癌は高齢男性の悪性腫瘍で、近年は前立腺癌特異抗原(PSA)測定による検診が普及したことにより、わが国でも急速に増えています。前立腺の被膜内に留まっているものを早期前立腺癌といって、手術と放射線療法によって根治することが可能です。
 本院では本年7月より大分県下で初めてヨウ素125シード線源永久挿入による前立腺癌密封小線源療法(以下、小線源療法)を開始しましたのでご紹介します。本治療の利点は合併症が少なく、入院が4日間ですむことです。
 小線源療法は、従来のリニアックによる外部照射法と異なり、前立腺内に放射性ヨウ素を含んだチタンカプセル(シード線源 図1)を埋め込み、体内から放射線照射を行う方法です。この新しい治療は図2に示すように会陰部(陰嚢と肛門の間)から、X線と超音波を見ながらシード線源を挿入し、正確かつ的確に前立腺に放射線照射を行うことが可能です。放射性ヨウ素の放出するエネルギーは非常に弱くほとんどが前立腺内で吸収され、半減期は約2ヶ月で、1年も経過すればその放射線量はほとんどありません。
 小線源治療の適応は前立腺内に限局した癌ですが、前立腺体積が20〜40mlで、治療前PSA値10ng/ml以下などの条件を満たす低リスク群が理想的とされています。前立腺が大きい場合には、術前に内分泌療法を行って体積の縮小を図ると本治療が可能になることがあります。シード線源の挿入には全身麻酔または腰椎麻酔で行い、出血は軽微です。術後に排尿困難や尿意切迫感などの排尿症状が出現しますが、ほとんどが数週間で自然に軽快します。一時的に尿が出なくなること(尿閉)がありますが、通常は自己導尿や尿道カテーテル留置により1〜2ヶ月程度で軽快します。直腸への刺激で排便回数が増えることもあります。
 なお本治療法に特有の注意点は、挿入後1年以内に患者さんが亡くなられた場合は解剖して前立腺を取り出すことが法律で義務づけられていることです。この点についてご家族の同意が得られることが必要です。
 最後に、本治療法の10年非再発率は低リスク群で85%とされており、手術とほぼ同等と考えられています。しかも手術や従来の外部照射による放射線療法と比較して合併症が少なく、より低侵襲の治療法と考えられています。また、従来は根治療法の適応は75歳までとされておりましたが、本治療法は80歳未満の方でも施行できますので、ご希望の方は現在の主治医にご相談の上、泌尿器科外来を受診して下さい。

図1図2

 

(文責 泌尿器科 三股 浩光)

最終更新日時: 大分大学医学・病院事務部管理課作成