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身体活動と心拍変動の関連に及ぼすインスリン抵抗性の影響

(原題:Influence of Insulin Resistance on the Association Between Physical Activity and Heart Rate Variability: The Toon Health Study. Physical Activity & Health 2020; 17:1075-1082. )

 自律神経系機能にはホルモンの分泌を促し身体のバランスを調節する働きがあります。自律神経系の活動は心拍変動(HRV)によって捉えることができますが、身体活動(PA)により影響を強く受け、また自律神経系の活動はインスリン分泌を調整する働きもあることから、自律神経系の活動が悪くなるとインスリン抵抗性やインスリン感受性の低下が出現するリスクが高まると考えられています。さらに、PAとインスリン抵抗性に既知の関連があり、これらの因果関係を整理すると、図1のようなダイアグラムで表すことができます。

図1
図1 ダイアグラム1


 一方、インスリン抵抗性の出現はPAと自律神経系の中間、もしくはその上流に位置するのではないかという仮説もあり、図2のようなダイアグラムも考えられます。

図2
図2 ダイアグラム2(作業仮説)


 これまでPAと自律神経系機能との間の関連において、インスリン抵抗性がどのような役割を持っているのか、あまり研究が行われていませんでした。そこで、地域の疫学研究を用いて、作業仮説に基づきPAと自律神経系機能との関連に及ぼすインスリン抵抗性の影響について分析を行いました。その結果が国際誌に掲載されましたので紹介します。



1.地域疫学研究「東温スタディ」
 本研究は2009年から2012年にかけて行われた30~79歳の男女2016人を対象としました。PAは、睡眠、仕事、移動、家事、余暇における各領域のPAを妥当性のある質問紙を用いて把握しました。自律神経系機能は、座位において心拍数(HR)とHRVを指先センサーで検出した脈波を5分間記録して推計しました。HRV は、周波数領域の指標(正常NN間隔の標準偏差 [SDNN]、連続差の二乗平均平方根 [RMSSD]、正常NN 間隔 >50 ミリ秒 [pNN50])、および時間領域の指標を算出しました。インスリン抵抗性は、空腹時の血糖値とインスリン値によりホメオスタシスモデル評価指標(HOMA-IR)を用いて評価しました。

2.PAとHRVとの関連
 HR、RMSSD、およびpNN50は、交絡因子としてHOMA-IRを含むモデルにおいて、総PA値および中等度/重度のPA値と有意な線形の関連を示しました。1-標準偏差増加あたりの総PAの偏回帰係数は、対数変換したRMSSDが0.05(P = 0.019)、pNN50が1.86(P = 0.001)でした。

3.インスリン抵抗性の関与
 HOMA-IRを中央値で2群に分け、それぞれの群においてPAとHOMA-IRとの関連を分析しました。その結果、いずれの群においてもPAの増加は心拍数と負の関連、またRMSSDやpNN50(これらは副交感神経系活性の指標)とは正の関連を認め、交互作用は認めませんでした。

図3
図3 HOMA-IRの中央値で層別化したPAと自律神経系機能マーカーとの関連


4.運動による身体活動とPAとの関連
 PAを各領域に分け、自律神経系機能のマーカーとの関連を検討しました。その結果、運動との関連が認められたため、運動によるPAを1METs-h/d未満と以上の群に2群し、総PA等を調整しながら差の検定を行いました。1METs-h/dの運動とは、1日20分程度のウォーキングに相当する運動になります。1METs-h/d以上の群では、自律神経系機能のマーカーが、それ未満の群に比べて有意に高く、自律神経系機能が良好であることを認めました。

図4
図4 運動と自律神経系機能との関連


5.まとめ
 PA値の低下は、HRの上昇とRMSSDおよびpNN50で表される副交感神経系の活動の低下と関連し、両者の関連は、インスリン抵抗性によって修飾されないことが示唆されました。すなわち、インスリン抵抗性はPAと自律神経系機能の間に介在している可能性は小さく(作業仮説は棄却)、むしろ図1で示すような因果関係の可能性を示唆するものと考えられます。
  本研究は横断研究のため、因果関係を証明することはできません。今後、前向き研究によってより確かな因果関係を立証する必要があると考えています。