大分大学医学部
臨床薬理学講座
講座の概略
我が国の医学では、ベッドサイドでの臨床研究よりも、ベンチでの基礎研究に重きを置いていました。しかし、 基礎的な研究で得られた知見の多くがヒトで再現されないというというのも事実です 。 試験管の中で分離された細胞や実験動物で効いた薬の多くは、実際の患者さんで使ってみても効かないことが多いのです。それは何故でしょうか?あえて単純に答えるとしたら、私達人間は、ネズミとは異なるからです。また、基礎実験、つまり動物実験等での知見が、仮に生物種としてのヒトにも外挿 可能(つまり、ネズミとヒトが生物学的な意味でつながるとこと)だとしても、その結果が、社会に生きる人間としての"私達"にどういう意味があるのかは、試験管の中では検証できません。人間の問題は、人を対象とした研究、つまり臨床研究を通じて検証する必要があります。そして、それは医師や医学研究者が実践していく狭い意味での医学だけの問題ではなく、患者さんや家族、また行政なども巻き込んだ私達の"社会"の問題でもあるのです。 このような複雑な問題に 、臨床医学の中で答えを出して行くために大分大学の臨床薬理学講座は存在しています。
大分大学医学部の前身である大分医科大学は、昭和57年に開校しましたが、開校の当初から 臨床医学としての 臨床薬理学の重要性が認識されていました。その結果、私達の臨床薬理学講座には、 臨床医学系講座として位置づけられて誕生しました。つまり大分大学医学部は、日本で初めて「臨床薬理学」を臨床医学の中に位置づけた革新的な医学部なのです。その革新性は、開学当初から発揮され現在も維持されています。例えば より良い薬物療法を科学的に探求し実践していく場として、附属病院内に特殊診療科としての臨床薬理センターが設置されています。また最近では、学内外の臨床研究を支援する組織として総合臨床研究センター(GCRC) が整備され、その部門のひとつとして臨床試験専用病床であるCTU(Clinical Trial Unit)を設置し、より先進的な医療技術を探索・検証し、さらに実践していくことが可能となっています。
疾患に基づく薬物体内動態の変化に対応した投与設計を行い、安全でかつ有効な薬物治療を実施するための学問を体系化していくことは重要な課題です。 臨床薬理学講座は、開学以来の伝統を引き継ぎながら、科学的な薬物治療学を確立することを目標として教育・研究・診療を行っています。
文責 上村尚人(臨床薬理学教授)